豊島逸夫の手帖

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中国経済、貿易戦争疲れの症状

2018年9月5日

中国の8月PMI(製造業購買担当者景気指数)が50.6となり3か月連続で低下。PMIの中味も生産は好調だが新規受注が減っている。

いよいよ米中貿易戦争の影響が実態経済、特に中小企業・輸出企業にジワリと効き始めたかとマーケットでは不安視されている。

更に習近平政権が進める過剰債務の圧縮(ディレバレッジ)により、中小金融機関、特に「シャドーバンク=影の銀行群」が締め上げられた。融資基準が厳しくなる「貸し渋り」により「金回り」が悪くなり、そろそろ民間企業が音を上げ始めたところだ。構造改革路線を進めると、不採算プロジェクトや企業体質が弱い会社への融資が絞り込まれる。一方、銀行の抱える不良債権は減るので金融機関の健全性維持は優先される。

このような状況でPMIが悪化すると、党指導部にも不協和音が生じる。最近開催された長老たちと政権との対話=北戴河会議では、長老側から行き過ぎた貿易戦争エスカレートと上記のディレバレッジに関して「ほどほどに」という声が上がったとされる。

現政権も先輩たちからの「異議申し立て」を無視できず、徐々に締めつけの手を緩め始める動きも出始めたところだ。中国人民銀行は民間銀行が融資に廻せるカネを増やすために、金融政策の舵取りを暫時「緩和」方向に切り始めている。具体的にはマネー供給のバルブを緩めること。但し条件付きだ。融資先を貿易戦争の影響を受けている輸出企業や中小企業に絞れとの行政指導である。金融業の監督面では強い権力を持ち、泣く子も黙ると怖れられる「銀行保険監督管理委員会=銀保監会(略称)」も、銀行向け指針で輸出企業への融資を優先させるべく通達を出した。

習近平政権は明らかに構造改革を暫時棚上げして、国内景気下支えを優先させている。

PMI悪化はこの路線変更をスピードアップさせるだろう。

なお一連の「金融緩和」という救済の手は、膨大な隠れ借金を背負う地方政府にも及ぶ。

正規、不正規の金融機関からの融資で、競ってテーマパークなど大型箱ものプロジェクトを立ち上げた地方政府が、金融締め付けにより中央政府から待ったをかけられた。大型インフラ投資と言えば聞こえは良いが、実態は地方経済の雇用を生むための壮大な無駄使いが多い。中央政府も経済成長率重視の時代には地方政府を競わせたものだ。それが突然の「変節」。話が違う、闇討ちだと不満の声が高まる。中には中央からの警告を無視して、堂々と不採算プロジェクトを継続するケースもある。

そこで政権側は、妥協策として地方への銀行融資を地方政府が発行する「地方債」に切り換える措置を打ち出した。その地方債を誰が買うのかと言えば買い手が付かず、結局銀行が購入する羽目になる。中国人民銀行が緩和的に供給するマネーを銀行の地方債購入に廻せとの通達も出した。地方債を押し付けられた銀行からはブウブウの不満が聞こえる。そこで中国人民銀行は地方債を適格担保に指定する妥協案で宥める。

とは言え、こうなると市場は銀行の資産健全化を危ぶみ、銀行のリスク管理を心配し始める。不良債権も見かけは減っているが実質的には高止まりしているだけだ。

構造改革を優先させれば景況安が悪化する。景況感を優先させれば中国の過剰債務体質は変わらず、金融システムが不安定になる。

このジレンマを解く「正解」は無い。どこかで膨らんだ債務は「臨界点」に達するは必至だ。

中国政府が先送りすればするほど、臨界点の債務メルトダウンのレベルは高まる。

2018年