豊島逸夫の手帖

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貿易戦争開戦、米国債異変の謎

2018年7月6日

本日午後1時にトランプ政権は対中制裁関税340億ドルを発動した。市場には織り込み済み。

実はマーケットが気になることは米国債の異変だ。

かねがね指摘されてきた米長短金利差縮小。イールドカーブのフラット化。更に金利差逆転の可能性。

昨晩は10年債と2年債の利回り格差が遂に0.3%の水準を割り込んだ。

NY市場終了時点で、10年債が2.836%、2年債が2.549%。

直近のトレンドを見ても、10年債は2.8%台前半までジリジリ下がっているが、2年債は2.5%台後半をジリジリ上昇中だ。

並べてみても、30年債2.949%、10年債2.836%、5年債2.733%、2年債2.553%。2%台の水準で利回りが異常に接近している。

昨日もFOMC議事録で、貿易摩擦が懸念されても利上げは継続する方針が確認され、相関の強い2年債の利回りが上昇。一方、10年債の方の上げは限定的だ。

本当に利上げを続けて大丈夫なのか。

市場が気になる一節がFOMC議事録の中にあった。

「FOMC参加者の数名(some)は、潜在能力を超えて長期間推移する経済がインフレ圧力を高め、金融システムが不安定化し、遂にはかなりの経済後退を招く懸念を表明した」

正にイールドカーブのフラット化が暗示するシナリオだ。

ちなみにFOMC議事録にも、長短金利差縮小について活発な議論が展開されたことがかなりのスペースを割いて記されている。FRB調査スタッフがこの問題についてプレゼンテーションした後で、参加者が侃侃諤諤の議論を交わしている。

歴史的に景気後退の前兆とされる事象ゆえ無視は出来ない。とは言え、その統計的有意性には疑義も根強い。結論が出るはずもなく両論併記で終わっている。

かねてから市場内には「米国国内経済基調は絶好調」の認識は強く、それだけに「良すぎる経済」の孕むリスクも意識されてきた。景気循環サイクルの最終局面と捉えれば、2019年後半が危ういとの見通しはNYで14社のヘッジファンドを訪問した時頻繁に提示された見解であった。

年内はまだ株ロング(買い持ち)で引っ張ってゆける。しかし来年はエクスポージャー(株への露出)を減らす意向との意見があちこちで聞かれた。

貿易戦争リスクは特に投資家のセンチメントを冷やすが、長短金利差縮小は経済の症状が「経過観察」に置かれていることを示す。それだけにジワリと効く材料とも言える。

「年末まではパーティーに参加するが出口に近いところに陣取る。」

2018年後半は短期売買に徹して、稼げるうちに稼ぐとの本音が透けた。

2019年は金を取り巻く市場環境も変わる。

2018年