豊島逸夫の手帖

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金に関する日経掲載原稿

2018年6月25日

以下は先週、経産省の外郭団体で金の健全な普及を目指す一般社団法人日本金地金流通協会の意見広告に寄稿したものです。

金はしばしばビットコインと比較される。そこで筆者はツイッターのアカウント@jefftoshima(フォロアー約1万9千人)のアンケート機能を利用して問いかけてみた。

「あなたに百万円相当のボーナスをあげます。受け取りは以下の4つから選択。1)ビットコイン、2)金、3)日本円紙幣、4)米ドル紙幣。但し、受け取りは10年後(太字で)です。」

結果は金51%、ビットコイン20%、米ドル紙幣17%、円紙幣12%だった。

次に同じ設問で受け取り時期を3週間後にしてみた。

するとビットコイン31%、金29%、円紙幣22%、米ドル紙幣17%となった。

10年後にも価値を維持していると考えられるのは、やはり金。一方、短期では仮想通貨が個人の射幸心を刺激している。

通貨として見ると価値交換機能はビットコインが優る。金地金でモノは買えない。一方、価値保存機能となると金に軍配が上がる。ビットコインは歴史も浅く価格変動も激しい。

そもそも金は「儲ける」ものではなく「貯める」ものというのが筆者の持論だ。安く買って高く売り儲けたいのはやまやまなれどプロでも至難の技。特に今やトランプ相場がどうなるか正確に読み切れる人はいない。何せトランプ大統領自身がどうするか分かっていないことは明白なのだから。それ故トランプ相場に出遅れまいと焦る必要は全くない。焦ってギャンブル的売買に走れば得するのは業者だけである。

では金を資産として持つ意味はあるのか。

金は利息も配当金もつかずインカムを生まないから投資適格対象とは言い兼ねる。寧ろ保険に近い。欧州では「金は嵐の晩に輝く」と表現される。

資産運用の視点では金はあくまで脇役。インカムを生む株・債券などが主役である。金の役割は主役の調子が悪い時にポートフォリオの目減りを防ぐヘッジ機能にある。金だけを持つのでは単なる投機になってしまう。

逆説的に言えば、金を長期的に保有してそれが役立たないのが実は最も望ましい。しかしリーマンショック以来、役立ってしまう事例が増えているのも事実だ。

なお長期資産として重要な点は現物の金には発行体がないこと。無国籍通貨とも言われるが破綻リスク、ソブリンリスクとは無縁である。

現物の金の買い方の勘所は、信頼できる所で、且つまとめ買いしないこと。短期的には先物市場の影響で乱高下が激しいので、何回かに分けて購入することが望ましい。最近、株の世界で積立感覚の商品が注目されているが、金の世界では1980年代から積立型が展開されている。

注意すべきは「有事の金」。北朝鮮有事などで金が急騰しても、プロは冷静に利益確定売りに走り、結局煽られた個人が高値掴みすることになる。金は平時に買い有事には売って凌ぐものだ。

特に初心者は身の丈にあった金額から始めることが肝要だ。そして少量でも金を保有すると金価格動向が気になるようになる。それまでテレビでワイドショーしか見なかった人が急に公共放送の国際ニュースを視聴し始め、中東情勢や中銀総裁発言などに興味を示すようになるものだ。そうなればしめたもの。日本人に欠けると言われる国際感覚が自然に身に着く。若い人であれば、これが将来必ず役に立つはずだ。これだけでも金保有の意味があると筆者は思っている。金は世界情勢を映す鏡のようなものだ。

さて気になる金価格だが、短期的には予測が振れるが長期的には上昇トレンドを筆者は確信している。生産面では埋蔵量は豊富なのだがその多くが海底にある。原油なら液体ゆえ噴出してくれるが金は固体だ。1トンの金鉱石から純金が3グラムも抽出できれば御の字の世界なのだ。それ故海底の金資源開発はとても採算に乗らない。新規金鉱山開発案件も近年激減している。その結果リサイクルが今後重要な供給源になる。金は腐食せず残るので金が高値になると還流が増え、相場のアタマを叩くことにも留意したい。

一方、需要のキーワードは何と言っても中国。今や中国がダントツで世界最大の金生産国であり金需要国でもある。国内生産では足りず毎年大量の金を輸入している。しかも民間需要に加え、中国人民銀行が外貨準備として無国籍通貨の金保有量を増やしている。更に金は半導体に使われる素材ゆえ、中国は資源備蓄として国内金保有を促進してきた。「中国製造2025」でその重要性が増している。金は資源政策と通貨政策の対象なのだ。個人投資家の金保有をいち早く自由化したのも、現物の金を国内で中国人に長期保有させれば不動産市場で暴れる過剰流動性を吸収できるからだ。

2018年