豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. ムニューチン・ショック、ドル安時代到来か、金は急騰
Page2475

ムニューチン・ショック、ドル安時代到来か、金は急騰

2018年1月25日

これはかなり大きな出来事です。金の上昇トレンドを追認したと言えます。

以下、今日の原稿。

ダボスから冬の嵐が市場を直撃している。

「ドル安は貿易・(ビジネス)機会の面で良いことだ。」とムニューチン財務長官は発言した。「長期的には強いドルは米国経済力を映す。ドルは主たる準備通貨である。」と両論併記したものの、ドル安傾向に敏感になっている市場はドル安容認発言と解釈した。ドルインデックスも遂に90の大台を割り込んだ。80台となると歴史的にドル安時代のレンジを想起させる。90台であれば「ドルがいつ底打ちか」が語られるのだが、80台となると「ドルがいよいよ長期的下落トレンドに入ったのか」が論じられるようになる。ムニューチン発言は明らかに市場のセンチメントを変えた。ドルの代替通貨とされる金の価格がレンジを上放れ、北朝鮮有事の金買いのピークに匹敵する高値1360ドル台まで急騰したことが象徴的だ。金買いという投資行動はドルに対する不信任投票に等しい。

更に、畳み掛けるようにロス商務長官も「貿易戦争は毎日戦われている。これまでも貿易戦争は常にあったが、今回の特徴は米軍が防衛に来ることだ。」と語った。市場は「戦線布告の如き発言」と受け止める。

トランプ大統領が太陽光パネルと電気洗濯機に対してセーフガード(緊急輸入制限)を発動し、関税の大幅引き上げを決めた直後の発言ゆえ、市場へのインパクトも増幅される。

トランプ大統領は「選挙公約」を実現して中間選挙で支持派投票を固める姿勢を強めている。「通貨安競争」と「貿易戦争」も辞さずとの構えのようだ。

今回のトランプ政権幹部たちのダボス発言は、専ら中国を意識したものだが、日本が巻き込まれるリスクは無視できない。円相場が109円台に突入した直後の発言ゆえ、今後のトランプ政権幹部の言動次第で円高が更に進行するシナリオにも現実味が増す。

奇しくも、米国議会ではパウエル氏が新FRB議長に承認された。「低金利人間」を自称するトランプ大統領により指名されたので、政治的介入により利上げペースが遅れるというようなケースもリスク・シナリオとして市場は意識せねばならない。「トランプ大統領ならやりかねない」との懸念が払拭できない。これもドル安要因だ。

そして、通貨安競争ともなれば中国人民銀行の人民元安誘導のリスクからも目が離せない。「米中通貨戦争」ともなれば中国側の「武器」は大量保有する米国債である。既に「中国、米国債売却」の報道が流れ中国側が否定という一幕もあった。昨晩の米国債券市場では米国債がやや売られている。

なお、本日はECB理事会が開催され、明日はダボスでトランプ演説が予定されている。

ドル安、円高、ユーロ高要因が複合的に絡み、現在のドル安トレンドが形成されているので、まだまだ今週は波乱が続きそうだ。

2018年