2018年9月4日
本日の出し物は好評だった8月13日付「トルコ通貨危機の正体」のアルゼンチン編。
アルゼンチンと言えば債務不履行の「常習国」と見做される。過去100年間に6回デフォルトしてきた。最近では2001年に債務不履行した時、同国国債保有者が新たに発行された国債との交換を強いられ、元本の3割相当しか戻ってこなかった。国が3割損、投資家が7割損の「痛み分け」だ。一方、大手ヘッジファンドが全額償還を要求して法的紛争となり、結局ヘッジファンド側が勝利した一幕もあった。
かくして危機は去ったかに見えた。
しかしその後も国民人気取りのばら撒き財政が横行。財政再建に伴う増税、緊縮生活の痛みにはアルゼンチン国民が耐えられないと放漫財政が黙認された。懲りない人たちである。
政権がまともな政策では切り抜けられず、発表されるマクロ経済統計を改ざんする事態にも発展した。物価連動債の利払いを安く抑えるために消費者物価上昇率を低めに粉飾して出したのだ。お粗末。
結局アルゼンチン経済は景気後退、物価上昇のスタグフレーションに陥る。通貨不安も強まる。
その当時のフェルナンデス政権は、対応策として国民の外貨保有制限、海外旅行経費への課税など露骨な経済統制を強行。何せ国民が自国通貨を信用せず、預金と言えばドル預金が当たり前という国のこと。国内にドルのブラックマーケットが乱立する事態となった。インフレも加速して統制経済への国民の不満もピークに達し、2015年の大統領選挙で市場構造改革派の現マクリ大統領が誕生となる。
市場は「アルゼンチンの反省が殊勝である」と評価。
アルゼンチン国債も市場復帰を果たし、国の国債発行による資金調達への道が開かれた。調子に乗って、つい昨年7月には100年債という途方もない満期の国債が年率8%の利回りで発行され3倍もの応札があったほどだ。年8%いただけるのならアルゼンチンに100年間カネを貸してもよいとの投資家の反応だった。
ゼロ金利での運用難に悩む機関投資家も8%の誘惑には勝てず。とは言え、これはどう見ても「債券バブル」と言える現象であった。
マクリ政権は経済改革として油などエネルギー価格への補助金撤廃、公務員リストラなどを唱えたが国民は反発。やっぱり懲りない人たち。
そこに追い打ちをかけたのが米FRBの量的緩和終了・利上げ開始だ。世界にばら撒かれたマネーの受け皿となっていた新興国から緩和マネーが一転逆流。
投資家にしてみれば債務不履行常習犯アルゼンチンの国債を買って年8%の利回りを得るより、安定した米国債で年2%も貰えれば御の字ということになる。
泣きっ面に蜂で、アルゼンチン・ビーフ(筆者も大好物!カンケーないか 笑)で有名な農業畜産産業に干ばつの打撃。これは痛かった。
かくして市場が抱くアルゼンチン不安のモヤモヤ感がトルコリラ暴落により一気に噴出する事態となった。
最新状況はマクリ大統領がIMFに過去最大級の5兆円規模追加支援要請。当然経済リストラ必殺仕掛け人集団IMFからの厳しい条件付きゆえアルゼンチン国民は緊縮を強いられる。
極め付けが輸出品、特に稼ぎ頭の農業畜産品への課税だ。
アルゼンチンペソ暴落は輸出産業には価格競争力強化の恩恵を与える。そこでマクリ大統領は愛国心に訴え、思わぬタナボタの産業はその一部を「増税」というカタチで国へ利益還元してくれと要求した。農業業界は当然一斉に反発。これまで輸出大豆への課税を減税するなど妥協してきたマクリ大統領の「突然の変節」は許せない!と激怒。大統領側は、国の危機的事態ゆえ、これまでの温情的措置は忘れてくれと懇願。来年の大統領選挙を視野に「これが悪税だと分かっているが、そこを何とか」とすがる。そもそも米中貿易戦争の余波に巻き込まれたとか、FRBの勝手な利上げとか、神様も干ばつの試練を与えたもうたとかの言い分というか言い訳が続く。
市場も俄かにはアルゼンチンの「反省」を信じがたい。「本気度を示す具体的証拠を見たい」とクールな反応だ。
アルゼンチンペソの通貨不安が続く限り、ソブリン債務の8割を占めるドル建て債務は実質的に膨らんでゆく。CDSは急上昇。
アルゼンチン中銀は政策金利を40%から60%まで引き上げる劇的措置を少なくとも年内は続ける方針という。
IMFはプライマリーバランスを2019年までにGDP比1.3%目標を提示。
果たして達成可能な数字か。市場は疑心暗鬼だ。
アルゼンチンペソは年初から5割近く暴落している。
以上がアルゼンチン物語の最新版である。