豊島逸夫の手帖

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中国人民銀行、総裁人事

2018年3月19日


中国全人代は、人民銀行新総裁に易綱副総裁の昇格を決めた。同氏は一時有力候補に名が挙がっていたが、共産党の序列が低いままなので人選から外れたと見られていた。中国では名刺にも肩書きとして仕事上の役職と共産党員としての序列が併記されるほど、党内での地位が重視される。にも関わらず易氏が選ばれたことで様々な憶測が乱れ飛ぶ。元々、中国人民銀行は本当の意味で中央銀行とは言えない。経済方針は国務院が決める。人民銀行は、その実行部隊として優秀なテクノクラート集団である。


結論から言うと、易氏はスケープゴートにしやすい人物ゆえの人選だと私は思う。次期人民銀行総裁は、中国の巨額債務問題の後始末という誰がやっても極めて難しい経済の舵取りを迫られる「貧乏くじ」を引いた心境だろう。習近平国家主席は「経済の成長から質への転換」を語り続けねばならない宿命にある。しかし、経済成長が鈍化すれば直ちに失業が増え、社会不安が増大することは目に見えている。そこでスケープゴート役が必要なのだ。易新総裁は流暢な英語を喋り、米国の大学で教鞭を執ったこともあるほどの国際派。しかし日本同様、国内で「国際派」は亜流である。


なお、経済の司令塔は習近平国家主席の経済ブレーンである劉鶴氏。経済担当副首相として仕切ることになりそう。

人民銀行の役割は、何と言っても人民元相場管理。そして巨額銀行不良債権処理。

人民元に関しては、対ドルで高過ぎれば中国製品の輸出競争力が弱り経済成長が覚束ない。低過ぎれば中国からのマネー流出が加速して世界的株安の引き金となりかねない。高過ぎず安過ぎずという微妙な舵取りが必要となり、一歩間違えると詰め腹を切らされることになろう。


金に関しては、前任の周小川総裁が金売買自由化を進めた経緯がある。上海で開催された金に関する国際会議で、中国の金売買自由化政策を語ったこともある。その本音は、中国国民に金地金を保有させれば、そう簡単には売らないので過剰流動性が不動産・株式市場で暴れる事態を防ぐことが期待されるところにある。大手商業銀行に貴金属部を創設させ、リテール部門の優先順位を高め、行内各部署のエリートたちが選ばれ貴金属部に配属された。それほど行内での貴金属部のステータスは高いのだ。次期総裁の下でもこの基本方針は変わらないと思う。中国人民銀行の公的金購入も、近年一服しているがいつ再開されてもおかしくない。私はいずれ中国の公的金保有は今の3倍程度の5000トン程度に達すると読んでいる。私の長期的金強気論の根拠でもある。それゆえこの分野での人民銀行の動き、そして国務院の方針に注目している。


写真は私がアドバイザーを務めた大手銀行。金売買に特化した支店を創設するほど。銀行ならぬ「金行家」の文字が象徴的。その支店内には金売買を体験できるコーナー「交易体験区」もある。


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2018年