豊島逸夫の手帖

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人民元覇権、習近平氏の野望、金復権、円高80円も

2018年4月26日


トランプ政権の出現はドル一極集中体制への不安を醸成させている。その間隙を突き、習近平国家主席は世界の貿易面のみならず通貨面でも主導権を握るべく長期的戦略で動いている。人民元をアジアの決済通貨に仕立て上げる構想は既に東南アジア、中央アジアで実行に移されている。一帯一路構想から派生する貿易は人民元建てが原則だ。更に一帯一路の最終地点とも言える欧州では人民元建て売買のインフラを固めつつある。メルケル首相がトップセールスでフォルクスワーゲン首脳たちを率いて北京を訪問した時も「ドイツでの人民元取引所創設」をお土産として提示した。ブレグジットで存在が揺らぐロンドン市場も、人民元取引インフラを拡充することが重要な生き残り策の一つとなっている。

既にIMFからは「合成通貨SDR」の構成通貨として、ドル・ユーロ・円・ポンドに次ぐ第五の国際通貨としてのお墨付きを得たことは記憶に新しい。


課題の人民元自由化も、香港経由ながら中国のインターバンク債券市場に非居住者の外国銀行も参加できる「債券通」を「開通」させた。まだ第一歩に過ぎないが、中国債券市場の開放は人民元取引増加のために必須の命題だ。海外投資マネーの参入は国内市場の流動性確保のため欠かせない。


とは言え、人民元をドルに代わり基軸通貨の座に据えるとの野望は実現のハードルが高い。世界中に構築されたドル決済のインフラを変えるためには膨大なエネルギーと時間が要る。

最も現実的なシナリオはドル圏・ユーロ圏・人民元圏の通貨3極体制だろう。中東圏は無国籍通貨「金」になるかもしれない。コロンビア大学のマンデル教授が提唱した「最適通貨圏構想」という経済理論的な裏付けもある。世界共通通貨は政治的に非現実的ゆえ主要地域で最適通貨を創出する構想だ。この考えがユーロを生んだので「ユーロの父」と呼ばれる。ちなみに日本と中国でアジア通貨地域を作るべしと提言している。


ドルから人民元への分散が今後進行すれば、ドルへのニーズが低まり長期的に見ればドル安傾向が予想される。80円まで円高が進行しても不思議はない。ドルの代替通貨として「金」の復権も考えられよう。但しこの視点は通貨レジームチェンジを見据えた歴史的視点での予測で、2018年為替・金予測の類とは次元が異なる。
相場を見るには三つの目が必要だ。現場を見る「虫の目」。潮流を見る「魚の目」。そして歴史的に俯瞰する「鳥の目」である。
通常は虫の目と魚の目の視点での予測が多いが、時には一歩引いて「鳥の目」で見直すことも必要であろう。


なお今日の原稿は、今週発売の週刊エコノミスト「ドル沈没」のカバー記事で筆者が「80円の円高も」と語ったことが、そこだけ切り取られ独り歩きしているので真意を説明した次第。あくまで「リスク・シナリオ」で「メイン・シナリオ」ではない。

2018年