豊島逸夫の手帖

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市場騒擾、スタグフレーションの影

2018年10月30日


異常な値動きと言わざるを得ない。昨晩のNY株価は寄り付き後前日比350ドルを超す急騰。アマゾン・アルファベットの「失望決算」を織り込み、回復基調に戻るかと思わせた。しかし異変は日本時間午前3時頃に起こった。「トランプ政権はいよいよ中国からの全輸入品に関税引き上げか」との報道が流れ、市場心理が一気に悪化。24前後で小康状態にあったVIXも瞬間的に28まで急騰。ダウ平均は一気に下げ圧力が強まり、前日比560ドル超下げまで売り込まれた。日中の値幅は900ドルを超える。異常だ。救いは大引けにかけて前日比245ドル下げまで急速に買い戻されたことか。


それにしても連日のダウ平均乱高下。AIの売りが売りを誘発する制御不能の展開。「対中関税更なる引き上げ」というキーワードはアルゴ売買を刺激する。「市場に人影がない。」とのトレーダーの呟きが印象的だ。ゴーストタウンの如きマーケットでモニター画面の数字だけが刻々激しく動く市場風景が連想される。この流れを止めるにはAI売買のスイッチをOFFにするしかないのか。


不気味なのは株以外の債券・外為・商品市場はさほど大きな動きが見られないことだ。筆者にはスタグフレーションの影に怯えているようにも見える。


物価上昇が鈍いがジワリと上がってきている。昨日発表のPCE(FRBが最も注目するインフレ指標)も年率2%を示した。加えてサウジ異変が原油価格急騰を招くリスクも無視できない。関税引き上げが国内物価を引き上げる影響も効き始めている。


一方、米債券市場ではイールドカーブのフラット化が解消されない。長短金利差を表す10年債と2年債の利回り格差は僅か20~30ベーシス(0.2~0.3%)程度まで縮小したままだ。ここで12月利上げが実行されると、相関の高い2年債利回りが10年債利回りを追い越し逆転する「逆イールド現象」が起こりかねない。過去の事例では逆イールドの後は殆ど景気が後退しているので、市場は不気味な兆しと危惧する。


その結果、インフレと不況が同時進行するスタグフレーションが絵空事とも言えないのだ。
スタグフレーションは究極のリスクオフ。全員負けのシナリオだ。リスクオフ株安で買われるはずの金価格でさえ昨晩は下げている。

多くのファンドマネージャーが当面リスク量を減らす「ディリスク」に走る時、セリング・クライマックス(売りのピーク)が起こるのかもしれない。


いよいよ中間選挙が近づき、トランプ嫌いが多いウォール街も本音は共和党勝利でトランプ相場のモメンタム(勢い)が継続されるシナリオを密かに願っている可能性さえ否定できない。


世界情勢は歴史的転換点にある。メルケル首相の与党首辞任だ。ドイツの内傾化により、EUはイタリア・ポピュリスト政権に対して放漫財政に対する制裁金も含め「見せしめ」的に態度を硬化せざるを得ない。英国のEU離脱が悪しき前例とならぬように、ブレグジット交渉にも妥協を許さぬより強い姿勢で臨むであろう。市場はユーロという地域共通通貨の求心力低下を危惧する。ギリシャ危機より悪性の経済不安とも言える。ギリシャショックの時には未だ元気なドイツがいた。ECBもイタリア国債を含む欧州国債購入を年内で打ち切る方針だ。


これまで量的緩和マネーで潤ってきた新興国を含む世界の株式市場から流動性が引き潮の如く引いてゆく。今や量的質的緩和を継続する日銀が「最後の流動性の出し手」として意識されている。本日の日銀金融政策決定会合も無風と見られるが、世界の市場注目度は高い。「何か発表があれば、こちらが深夜でも電話で叩き起こしてくれ。」と切迫感に満ちたNYヘッジファンドの一言が印象的だ。


さて今日の写真は各種北海道チーズの盛り合わせ@TAKAO(札幌)。私はワインが飲めないのにチーズを食べてしまう。お茶で~~。チーズは糖質ほぼゼロだから、いくら食べても血糖値は上がらないので「罪悪感」なく食べられるのだ(笑)。ただブルーチーズだけはお茶で流し込んでも食べられまへん~~、堪忍~~。


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2018年