2017年1月5日
2016年、トランプ氏当選後、ヘッジファンド主導で急騰した日本株とドル。「チェンジ=変革」への期待度が強かったゆえ、反動も不可避である。しかし、通年ベースで見れば、乱気流に見舞われつつも、株高・円安の年となりそうだ。
まず、2017年の世界のマネーの流れを俯瞰すると、新興国から流出したマネーが米国へ流入。その一部は、米国内に留まらず、日本株に向かいそうだ。その背景には、米国年金の株式運用が、米国株中心から、国際分散運用への傾斜を強めていることが指摘される。そのトレンドを明示した調査レポートが、米国年金業界関係者から送られてきた。出所は、経済調査機関のカラン社である。同社が米国公的年金の目標リターンの年率7.5%を達成するためのポートフォリオを調査したところ、株式運用比率が2005年39%から2015年63%へ急増している。その中で、国内株=米国株以外の「外国株」運用比率も2005年14%から2015年22%へ増加しているのだ。そこで、国際分散投資の対象になるのが、欧州株、日本株そして新興国株。2017年については、政権・経済の安定度から日本株が最も注目されている。ちなみに、7.5%という目標リターンは、達成困難ゆえ、引き下げる動きが顕在化している。更に、相場の変動率を映す標準偏差値は、2005年8.9%から2015年17.2%まで上昇しており、まさに乱気流を連想させる。
その価格変動要因として、2017年に特に警戒されるのがトランプ次期大統領が惹き起こしかねない地政学的リスクだ。
特に、トランプ氏の嫌中・親ロ姿勢が地政学要因の連鎖を引き起こす可能性がある。米中の通商・為替摩擦に加え、南沙・台湾海峡緊張が視野に入る。台湾を米国側は交渉道具に用い、中国側は太平洋進出の口実に使う。更に、韓国騒擾の中で、中国にとって北朝鮮が有力な対米交渉道具となる。問題は、トランプ陣営に、アジアに精通した人材が見えないことだ。しかも、トランプ政権は縦割り組織ではなく、各分野の「成功者」を並列に置くフラットな構図だ。それだけに、異なる意見が噴出するなかでトランプ氏の決断力が問われる。
いっぽう、トランプ氏とプーチン氏が接近することは、欧州にとって脅威となる。まず、欧州側の対ロ防衛の要であるNATO北大西洋条約機構に対して、トランプ氏は一定の距離を置くかもしれない。欧州側も「ヨーロッパはヨーロッパで守る」との覚悟で、これまで情報共有などの関係が薄かったEUとNATOの連携を強めている。最大の懸念は、ウクライナ問題に対する経済制裁に、トランプ氏が「お構いなし」とばかり緩和姿勢を見せるシナリオだろう。「米国は世界の警察にあらず」との発想から、ありうるシナリオだ。加えて、ドイツ・フランスなどの選挙、イタリアの銀行不安、英国EU離脱に不透明感などが共振して、EU内部の亀裂が顕在化すると、対ロのせめぎ合いで、欧州側のオウンゴールとなりかねない。フランスの大統領選挙有力候補者二人とも、農業輸出先としてロシアとの関係維持を重視せざるを得ないことも気になる。更に、バルト3国などは特にロシアの脅威を実感している。しかし、頼りのEUも2017年は大きく揺れることになろう。
もうひとつ、ワイルドカードとして筆者はイランに注目する。
トランプ氏は、年末のツイッターでも、「最後の始まりは、あの酷いイランとの駆け引き」とイランに対する敵意を露わにした。イラン核合意廃棄は極論にしても、弾道ミサイル開発・人権問題分野での対イラン制裁は残る。いっぽう、イランは核交渉合意で経済制裁は一件落着と解釈している。仮に、米イラン関係がこじれると、南沙より中東の火薬庫のほうが引火しやすい。イラン核開発再開、シリア内戦介入強化、犬猿の仲のサウジにも核拡散、イスラエルはイラン空爆、など絵空事とはいえない。万一そうなると、プーチン氏が白馬の騎士役を演じるかもしれない。更に、イランがOPEC減産合意から外れることで原油価格急落リスクもはらむ。なお、原油価格については、生産国の申告生産量に対する不信感がつきまとう。ヘッジファンドの先物買い主導の原油高は持続性に欠ける。
これら地政学的要因によるリスクオフは、ヘッジファンドによる円買い、日本株売りの口実とされやすいので要注意だ。
最後に、マクロ経済面を吟味しよう。
注目は、やはり米国経済。現在の市場は利上げ回数3回を織り込んでドル高に振れている。しかし、本当に3回利上げできるのか。米国経済はその衝撃に耐えうるのか。せいぜい2回、場合によっては1回との見方も底流に残る。これは、ドルの急反落=円高を招きかねない要因だ。更に、米国の金利上昇が、米国経済再生の証しなのか、生産性向上を伴わないインフレ懸念の先取りなのか。積極財政と金融引き締めのポリシーミックスとなるのか。昨年までは、利上げは「データ次第」とされたが、今年は「トランプ次第」となりそうだ。
いっぽう、中国経済は、巨大な債務問題をかかえつつ、建前は構造改革優先だが、共産党大会も視野に、結局、経済成長優先となりつつある。人民元も、巨額のマネー流出に歯止めをかけるために人民元買い介入を迫られるが、国内雇用を維持するため輸出を重視すれば、人民元安を容認せざるを得ない。中国人民銀行は、危うい綱渡りを強いられている。とはいえ、2017年に限定すれば、とりあえず止血措置で乗り切るのではないか。
このように見てくると、未だ財政金融政策余地を残す中国経済より欧州経済のほうが脆弱に映る。そして、欧州・中国に比し、日本の経済政治面での相対的安定度が欧米市場では評価される。それゆえ、日本株には追い風は吹くが、地政学的リスクが勃発すると、円が安全通貨として買われやすいという現象も不可避なのだ。
総じて、トランプ人事を含め欧米の政治要因から目が離せない一年となりそうである。