豊島逸夫の手帖

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円相場はトランプ政権の通信簿

2017年8月21日

「北朝鮮リスクが市場の材料としてやや陳腐化の兆しが見えたところで、円買いポジションを円売りにダブルアップと身構えていた。ところが、人種問題に関するトランプ発言が政権を揺らす事態となり、円買いポジションをダブルダウンしている。」

ヘッジファンド用語なのだが、ダブルアップとは、例えば買いポジションをひっくり返し、売りポジションに転換することを指す。ダブルダウンとは買いポジションを更に倍賭けすることを言う。ブラックジャックで使われる用語の援用と思われるが、今の円相場の実態を表している。

今やドル売り・円買いトレードは、トランプ政権への市場からの不信任投票の如き様相である。

円相場とトランプ支持率に一定の相関関係を見出し、36%で110円台、34%で108円台、そして仮に30%という危機ラインまで落ち込めば106円台を視野との見方もある。

18日金曜日のNY市場後場に入り、バノン氏更迭の報が伝わるや、NY証券取引所には期せずして歓声が上がった。下げ基調だった株もドルも反転。しかし、それも結局アルゴリズムの初期反応に終わった。ひとたび冷静になれば、これでトランプ政権の所謂「グローバリスト」がホワイトハウス内で主導権を得たとの楽観論は少数派である。バノン氏が古巣ブライトバート・ニュース会長職に復帰して「経済ナショナリズム」のボルテージを上げるのは必至の情勢だからだ。「私は自由になった。私の武器を使う。」バノン氏の政権決別の辞だ。それに対してトランプ氏は「健闘を祈る。」とばかりに激励のツイートを発している。信じがたいことだが閣外のバノン氏とトランプ大統領の連携プレーの可能性さえ絵空事ではない。トランプ氏は「泣いて馬謖を斬った」心情かもしれないが、今回の「馬謖」は問題児であり、未だ意気軒昂である。

一方、バノン斬りが岩盤支持層からの反発を招く可能性も指摘されるが、彼らの多くは今回の展開を「トランプいじめ」と受け止めている。トランプ氏の言う「フェイク・ニュース・メディア」が彼を叩けば叩くほど、支持層の「同情」が高まる傾向にある。

更に、支持率について心理学視点では「ユニークな思想を持つ有権者は世論調査などで自分の考えを披歴することをためらう」とされる。それゆえ「トランプ政権崩壊」の如きシナリオは現実的ではない。なんと言ってもトランプ氏は現大統領職にあり、有力な対抗馬も見当たらず、そもそも弾劾の可能性も低い。市場は好む好まざるに関わらず、トランプ大統領と4年間付き合わねばならぬ。

その過程で今回のような「政権を揺らす」事態は頻発しよう。そのたびにマーケットはリスクオフに振れよう。これこそ投機筋の狙い目だが、結局、短期的乱高下に終わりやすい。

日経平均下落にしても、円高にしても、仮に大きく振れても、その直後にはヘッジファンドの「ダブルアップ」が待ち構えているので、反転も激しくなりがちな市場の構図になっている。

そこで市場の持続的トレンドを決めるのは、やはり金利=金融政策であろう。マーケットの関心は今週のジャクソンホール中央銀行会議でのイエレン議長講演に集まる。9月FOMC前のこの時期にイエレン氏が利上げ・資産圧縮に関しての新たな政策見解を具体的に述べることは考えにくい。とは言え、一般論としてインフレ率低迷、労働市場逼迫、資産価格上昇などのテーマについてのコメントから市場は行間を読み反応するだろう。但し、イエレン氏は言質を与えるような発言を控えるので、トレンドが明確になるのは結局9月の秋相場入り以降となろう。ドラギECB総裁の発言も注目されているが、量的緩和縮小・終了示唆発言が急激なユーロ高を誘発したので、今回は「おとなしく」しているとの観測が目立つ。

総じて、現状の株安・円高はトレンドとして定着しておらず、8月中には巻き戻され、マーケットは9月「本番」に備えつつあるようだ。

なお、金価格は中央銀行の通信簿と言われる。

金融政策の節度が保たれれば、国民は自国通貨を安心して保有し、代替通貨として金を保有することはないはず。従って、金が買われないことが中央銀行の信認が厚く通信簿の成績が良いということなのだ。

それから、日経ヴェリタス今週号の「豊島逸夫の逸'sOK!」には「トランプ政権危機の引き金」と題して書いた。

一方、週刊現代の今週号には米朝開戦でどうなる特集の中で、株とドルについて45ページにコメント。

2017年