豊島逸夫の手帖

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トランプ大統領を見切る市場、トリプル安の展開

2017年7月19日


難航していた米医療保険制度改革(オバマケア)撤廃と代替法案が遂に議会採決断念に追い込まれた。
マイク・リー上院議員とジェリー・モラン上院議員が新たに反対を表明したところで、共和党内の造反議員数が4名に達し、上院可決は絶望的となり、マコネル共和党院内総務が白旗を上げ断念を表明したのだ。トランプ大統領も「まずはオバマケアを撤廃すべし。代替法案はゼロからやり直し。民主党も乗ってくる!」と空元気気味のツイートを発している。


この展開を受けマーケットの反応は、株・ドル・ドル金利のトリプル安。特に外為市場ではドルインデックスが94台まで下落。トランプ大統領の経済政策への期待から一時は103台まで上昇したが、結局、米大統領選挙運動期間中の水準まで戻ってしまった。いわゆるトランプトレードの終焉を告げる如き動きだ。トランプ政権の支持率が36%にまで低下しているが、市場もドル売りで不信任票を投じたとも言えよう。債券市場でも米10年債利回りが、世界的な緩和から引き締めへの転換の流れの中で上昇傾向にあったが、再び2.2%台まで下落している。くしくも、ゴールドマンサックスが決算報告で債券トレーディング収入40%減を発表した。決定的な方向感に欠ける債券市場を象徴する事例と市場では受け止められている。NY株価も一時は失望感からダウ平均が150ポイント以上急落する場面もあった。但し、決算シーズンの中、その後は戻している。その中で金価格は続騰。1240ドル台で推移している。下の金価格グラフは先週水木金の動向。日本時間金曜夜の米消費者物価上昇率、小売統計発表(いずれも冴えない数字で利上げ観測遠のく)を境に上昇に転じていることが鮮明だ。


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この政治的要因の市場への影響は一過性とは言えない。国民生活に直結する案件ゆえ、政策優先度はトップ扱いの案件だ。しかも、オバマケア見直しで削減される歳出を大型減税の財源の一部として見込んでいた。このままでは大型インフラ投資も減税も実現の見通しがつかない。


これまで議会承認の時期が遅れても内容が妥協で薄まっても、トランプ財政政策への期待は根強く市場内に残っていた。
しかし、その淡い望みを砕くような展開になってきたのだ。
造反議員たちの争点は、結局、政府の負担を増やすのか、国民に負担を求めるのか。溝は深く、最適の解の組み合わせ無き連立方程式だ。


そもそも、市場が前提としてきたトランプ時代のポリシーミックスは金融正常化(引き締め)と大型財政出動であった。その金融政策はインフレ指標伸び悩みで、想定された利上げペース実現も危ぶまれてきた。そして、畳み掛けるかの如く、財政政策が大きく揺らいできた。
イエレンFRB議長も繰り返し金融政策への依存だけでは限界があることを明言してきた。財政政策が揺らげば利上げも資産縮小も覚束ない。
イエレンFRB議長議会証言から、今週のECB理事会、日銀金融政策決定会合と金融政策ばかりに市場の関心が集まっていたがトランプリスクが再び頭を擡げてきている。

2017年