豊島逸夫の手帖

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メルケル・メイ危機

2017年11月21日


メルケル首相の国内連立政権交渉頓挫により、場合によっては2018年春に独伊ほぼ同時選挙の可能性も出始めた。昨日の欧米市場でのユーロ乱高下が、想定外の政治的展開に対する市場の動揺を物語る。


英国EU離脱交渉の行方も視界は悪化するばかりだ。メイ首相に関しては、2名の主要閣僚辞任に加え、身内の保守党議員40名が不信任提出に合意の報道で、先週はポンドが乱高下する一幕もあった。市場は今週金曜日に予定されているメルケル・メイ直接会談に、果たしてメルケル首相が出席できる状態なのか否かを注目している。


一方で、市場内ではメルケル退陣を歓迎する見方もある。例えば焦点の移民難民問題について、ポーランドやハンガリーでは「メルケル首相は百万人を超える難民を一方的に受け入れた挙句に、その経費負担をEUに求めている」との不満が強い。ポスト・メルケルの新首相の人選次第では、新たな欧州のリーダー格のもとに再結束の機運が高まるかもしれないとの見立てだ。しかし、ドイツが難民規制を強めれば、難民流入最前線のイタリアやギリシャでは国内難民問題が悪化するだけだ。イタリアでは五つ星運動と北部連盟の二つの野党勢力が反ユーロ・反難民などの政策を訴え支持率を伸ばしている。このまま春に予定される選挙に突入するとかなり票が割れそうである。
かくして、イニシャルがMの女性宰相2名の去就に欧州市場は揺れる。


なお、もう一人のMの存在も重要だ。スーパー・マリオことドラギECB総裁である。
前回のECB理事会後の記者会見で、少なくとも2018年9月まで縮小(ダウンサイズ)ながらも量的緩和続行を表明して、更に状況が大きく変われば再延長もあり得ることを示唆した。その状況が政治面で大きく変わる可能性が強まっている。この場合、欧州株式市場の反応としては、緩和延長を歓迎して「悪いニュース」を「良いニュース」と捉える可能性がある。特にヘッジファンドはこのような思考過程で動く。しかし、長期マネーはイタリアの銀行がかかえる不良債権問題や、オーストリア、チェコなど東・中央ヨーロッパでのポピュリズム政党台頭、スペイン・カタルーニャなど独立運動の流れを欧州株のリスクと見做す。ECBの金融政策も、長期的視点に立てば、2019年にドラギ総裁が任期終了後、ドイツが次期総裁を送り込む可能性が指摘され、タカ派台頭が予想されるからだ。
総じて、欧州全体に自国第一主義の風潮が強まり、リーダー格の国の首相でさえ「ドイツ・ファースト」の国民感情を無視できない情勢だ。


金市場も2018年を占う時期になったが、ドイツ政局、英国EU離脱頓挫リスクなど欧州からも目が離せない。
足元では金価格が1290ドル台から1270ドル台まで急落。円高(ドル安)も111円台になると早々と手仕舞いで反転する。ドル高・株高の中ではドル建て金は売られやすい。

2017年