豊島逸夫の手帖

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バーンナンキ氏が見るトランポノミクス

2017年1月30日

経済長期停滞論を唱えるローレンス・サマーズ氏は、トランプラリーを「シュガー・ハイ=血糖値が上がって興奮する状態」と断じている。ホットな市場と冷めた学者たちの間にはかなりの温度差があるようだ。

バーナンキ氏もブログでトランプ政権の経済政策について慎重な見方を披瀝している。共和党はインフラ投資の急増を本当に支持するのか。もし、民間マネーを活用するということならば、規模が相対的に小さくなろう。減税も総論として語られるが、各論は多岐に亘る。富裕層向け減税が最も内部合意が容易なところだろう。しかし、高所得者は減税分を貯蓄に廻すのではないか。そして、財政政策は複雑で議論・実行に時間がかかる。2018年から2019年に、その効果が感じられよう。ゆえに、FRBは、民間より経済予測が控えめなのだ、と内部事情を明かしている。FOMC議事録でも、大規模財政出動を「上振れリスク」と位置づけている所以だ。

先述のサマーズ氏は、より厳しく論じている。

「人民迎合的政策が短期的恩恵をもたらすが、長期的には禍根を残す例は歴史的に多い。一年以内に、失望、不満が生じるだろう。新大統領は、国際的には危険な賭けに出て、国内では公約を実現するための政治的基盤が弱い。」

更に、スティグリッツ教授も辛辣だ。

ダボス会議では複数メディアとのインタビューに応じ、相変わらずのトランプ政権批判を繰り返している。

トランプ氏はノーマルではない。個別企業への恫喝に至っては、論外のこと。60年間築きあげてきた経済秩序が崩れつつある。グローバリゼーションは負け組への配慮を欠き、所得・富の格差を生んだ。勝者に課税し、敗者は救済すべし、との議論を唱え続けている。

同じノーベル経済学者でもエール大学のシラー教授はユニークだ。ケースシラー住宅指標で知られるが、株価予測もやってのける大学の先生なのだ。筆者も対談したことがあるが、気さくに、どの銘柄が良いかなどを論じていた。その教授が英ガーディアン紙への寄稿で、トランプ氏のビジネスマンとしてのイメージは幻だが、トランプラリーでダウ平均2万の大台を突破すれば、短期的に更に急騰すると予測している。

いっぽう、市場関係者の間で話題になっているのは、ジョージ・ソロス氏。やはり、ダボス会議で、複数メディアに対して、「トランプ氏は、詐欺師で、自称独裁者だ。」とまで言い切っている。投資の神様も、今回のトランプラリーは、判断を誤り、逆張りで1000億円以上の損失を被ったと言われている。その、うっぷん晴らしかと勘繰りたくもなる。それでも、同氏は「トランプ相場は弱気」の見解を変えない。「不確実性は長期投資の敵。今は、ご祝儀相場。これから、現実の流れが始まる。トランプ氏は勝つとは思っていなかった。自ら驚き、トランプ・ブランド構築に専念して、大衆を惹きつけた。」

ちなみに、ブレグジットに関しては、英国がいずれ考え直し、EUとよりを戻すと予測している。

諸説紛々。

ヘッジファンドから学者まで、トランプ氏がアニマルスピリッツを覚醒させたことだけは事実と言い切れるだろう。

新大統領の就任演説を投資の視点で解けば、2017年はトランプ相場のモメンタムで乗り切れるだろうが、保護主義の禍根が3年後に祟る可能性に注意である。自国第一主義が拡散すれば、成長が見込めず、パイの食い合いとなるからだ。個人投資家もトランプパーティーに参加するが、会場出口近くに陣取る発想が賢明であろう。長期的視点で、自己防衛する必要がある。トランプ相場の果実を無駄にせず、トランプ後に備えるべきだ。

金については、28日土曜日日経朝刊マーケット面にまとまった記事が載っているから、読んでみて。

2017年