豊島逸夫の手帖

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トランプ相場第二幕の実相

2017年1月26日

トランプ氏が、保護主義的政策の象徴ともいえるメキシコ国境の壁建設の大統領令に署名した日に、ダウ平均が2万の大台を突破した。

「自国第一主義」は世界経済の縮小均衡を予感させるので、株にとって良い材料とはいえない。しかし、株式市場は、メキシコ国境壁建設も「インフラ投資」の一環と見做す。環境規制を緩和してパイプライン敷設も、米国製鉄鋼を使うとの条件を市場は歓迎する。

マーケットの視点では、保護主義懸念はボディーブロー的にジワリと効くが、インフラ投資効果は即効性がある。

まずは買い。売りのタイミングはトランプ氏のツイッターをフォローしつつ決めればよい、とのスタンスだ。

ダウ大台突破の最大の推進力は、インフラ投資・減税・規制緩和の3点セットである。但し、いずれも、未だ全貌は明らかになっていない。議会とも折り合いをつけねばならぬ。従って、未だ、期待先行といえる。とはいえ、就任初日から、連日、大統領令を連発して、具体的公約実行をアピールした素早さは、市場に安心感を与えた。

更に、新大統領は、失業率4.7%が示すように相対的に好調な米国経済を引き継ぐ「運」も持ち合わせている。企業業績も悪くない。

「私の友人は米キャタピラー社の代わりにコマツの建設機械を買った。」と選挙運動中に語ったキャタピラー社の株価が昨日2%前後急騰したことも示唆的だ。

懸念されるドル高の企業業績への悪影響も、新大統領とムニューチン新財務長官の口先介入連携プレーで、「過度なドル高は放置せず」と釘を刺した。

いっぽう、市場には株価ベンチマークが割高ゆえ高値警戒感も根強い。

株を買っても、プットオプションでヘッジする動きが目立つ。

ノーベル経済学者ロバート・シラー エール大学教授は、先週、英ガーディアン紙に寄稿。ダウ2万突破を予測して見せた。現在の株高を「イリュージョン=錯覚」としたうえで、大台突破すれば、更に上値を追うもの。それも、連日の続騰というより、短い時間で実現するだろう、と論じている。筆者も対談したことがあるが、ノーベル賞経済学者ながら、株の銘柄の話題で盛り上がったりして、いたって気さくな先生であった。

エール大学 シラー教授研究室にて
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市場の変り身も速い。一昨日までは、保護主義の影に慎重な見方が多かったが、昨日は、一転、モメンタムに乗り遅れるな、との論調が増えた。ということは、シラー教授が暗示するごとく反転するときのスピードも速いということだ。

今後は、政治相場の色彩が益々強まろう。

新大統領の言動、側近の動きが最も注目される。イエレン氏の反応も見逃せない。

市場の価格変動(ボラティリティー)は激しくなろう。そのなかで、年内のトレンドは右肩上がりとなりそうだ。但し、そのトランプ相場の賞味期限には気をつけたい。

かくして、株に市場の注目が集まり、金は売られた。1200ドル割れ。

2017年