豊島逸夫の手帖

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どうなる北朝鮮

2017年9月5日

「有事の金」の語源を辿ると、1960~70年代の米ソ冷戦時代に遡ります。1962年には旧ソ連が米国の鼻先に位置するキューバに核ミサイルを配備。米国は対抗上カリブ海を海上封鎖。あわや核戦争かという一歩手前まで緊張が高まったこともありました。スイスでは各家庭で核シェルターを建てるようになりました。そのような時代に資産保全のため、万が一核戦争が起きても「実物が残る」ことから、金が「最後の拠りどころ=ラスト・リゾート」として注目されたのです。

その後ベルリンの壁が撤去され、米ソ冷戦時代の終焉とともに、もはや有事の金など必要ないとされ、金が売られ続けた時代に入ります。「有事の金など古い」とメディアでは書かれたものです。

その間、ドルや円、スイスフランが「安全資産」となりました。

ところが、今回の北朝鮮情勢緊迫により、核戦争の可能性が絵空事とは言えなくなり、改めて有事の金が見直されているのです。

しかし、現代はマーケットも変わりました。

いまやAIを駆使する電子取引が市場を席巻しています。頻度の高い短期売買により「有事の金」と殊更に囃して相場を押し上げ、少しでも高くなったところで売り払ってしまうヘッジファンドの動きが目立ちます。

しかし、ジックリ金の現物を保有して、いざというときに備えることが「有事の備えとしての金」の意味合いなのです。個人がプロの真似をして、北朝鮮有事の金だと煽られ買っても、もう時既に遅し。一足早く動いたプロはいつ売ろうかと身構えているのです。

今回の北朝鮮危機は、北ミサイル日本上空通過、過去最大の水素爆弾実験と激動していますが、地球上で今後の展開を正確に読める人はいません。そもそも、北朝鮮の国家主席や米国大統領でさえ次の一手を計りかねているのが実態です。メディアでコメンテーターが色々語りますが「それでどうなるの。」と問われれば「分かりません。」では恰好がつかないので「不透明、波乱含み。」という答えしかありません。

かく言う私も、今後有事の金が買われ続けるのか否か分かりません。

それゆえ、私は個人には「有事の金だと囃されうっかり手を出すな。」と口を酸っぱくして言い続けているのです。

普段から地味に金を少額で買い続けて貯めてゆくことが一見平凡と思われても、結局、長期的には最善の策なのです。私だって自分用の金購入は少しずつ地味に買い貯めています。「プロのくせに偉そうなことを言って、裏ワザもないの!?」と家族には突っつかれますけどね(笑)。 プロほど自分の資産運用は驚くほど地味なものですよ。

昨日も終日、特に普段接触のない一般メディアから「有事の金」についての取材を受け、夕方にはキリがないので電話にも出ず、メールも見ずに切り上げてしまいました。皆、私が有事の金は「売り」だと言うとガッカリして引き下がってゆくのです。

なお、今金価格が円建てでも急騰したところで売る個人も増えています。現金が必要な人なら私は正解だと思いますよ。但し、老後とか子供、孫のために金を蓄えている人たちは、今売るなど考えない方が良いと強く思います。

2017年