2017年10月17日
以下は、日経マネー先月号の筆者コラム「豊島逸夫の世界経済真相深理」原稿です。
前回本欄で7月末にもNYヘッジファンド仲間内の日本株勉強会講師役に招聘されていることを書いた。その前稿校了後に、自民、都議選大敗北、安倍政権支持率急落となり、安定政権という日本株の支持要因が大きく揺れた。結局、NY勉強会は「延期」。様子見となった。
その後、内閣改造、安部政権支持率若干持ち直しと続き、勉強会再開の兆しが見えたところで、北朝鮮情勢が急速に悪化。
ここで、日本株に対する見方がヘッジファンドの間で大きく割れた。
米年金基金などの長期投資マネーは、北朝鮮に地理的に近い国の株は、当面見送りの姿勢が顕著だ。
対して、ヘッジファンドのなかには、北朝鮮由来で日本株が大きく売り込まれれば、そこで買うとのスタンスも目立つ。
Buy Disaster 災害は買い。
カリスマ投資家ジムロジャーズ氏が好んで使う表現だ。
同氏は、東北大震災の当日、日本株を買っている。
ウクライナ問題勃発、ロシアへ経済制裁のときも、ロシア株が暴落する中で買いに廻った。そしてトランプ政権誕生。オバマ政権より親ロシア政策が期待され、ロシア株が急反騰した。その時点で、同氏はロシア株を売り払っている。ロシア株?と訝ってきた筆者に、得意満面で、それ見たことか(You see!)と言ったものだ。
そして北朝鮮。
実は、2年前から同氏は北朝鮮を投資対象として注目。投資機会を模索してきた経緯がある。さすがに北朝鮮への投資アクセスは北朝鮮発行の銀貨くらいしかないと嘆いていた。それでも、「いずれ、朝鮮半島は統一される。北朝鮮は資源国。日本経済には有力なライバルになる。」との長期的見立てだ。
さすがに今回の北朝鮮危機で、下手すれば、米国による個人制裁対象にもなりかねない行動は控えるだろう。
しかし、北朝鮮要因で日本株が売り込まれれば、必ず底は拾うだろうと友人として見守っているところだ。
一般的にも財政危機に陥った企業に投資するディストレス・ファンドの発想で、北朝鮮のとばっちりで急落した日本株の底を模索する動きが出るは必至と思われる。
直近のヘッジファンドとの会話のなかにも、その意図が透けるような質問が飛び出す。
日本株にとってヘッジファンドは波乱要因だが、今回ばかりは、万が一最悪の事態になったとき、買い向かってくれる貴重な存在になるかもしれない。
なお、北朝鮮要因が長引き陳腐化すれば、今やヘッジファンドの定番メニューに載っている日本株が検討対象になる可能性がある。秋以降、日本株急反転のシナリオを筆者は描いている。
米国視点の「国際分散運用」で、これまで主役であった欧州株にはユーロ高が重荷になる。ECB量的緩和縮小観測がそもそものキッカケだが、結果的に、欧州株ファンドの資金流出を報じるメディアが目につく。ライバルの欧州株がもたつけば、依然マーケットに滞留する過剰流動性が日本株に向かう可能性がある。
世界の主要中銀の緩和縮小傾向が指摘されるわりには、遅々として進まず、実質的緩和状況は続いている。年末まで過剰流動性相場継続は必至だ。債券・円などに逃避しているマネーも、いつまでもリスク回避を続けるわけにもゆかない。
そこで選択肢の一つとして、グローバル視点では、高望みは出来ないが日本株浮上を演出する市場環境は徐々に整いつつある。
以上
「高望み出来ない」と書きましたが、この原稿執筆時点では想定されていなかった「解散・総選挙」で一気に秋の株高が進行することになったわけです。キッカケは解散・総選挙ですが、その素地は整っていたということです。