2017年3月14日
FOMC開催日に合わせたように、猛吹雪が米国東部を直撃の様相で、メルケル首相の米訪問も金曜まで延期された。市場の視点では、まさに嵐を予感される成り行きだ。
この材料満載の週にマーケットはどう動くか。その勘所をまとめてみた。
1)米利上げ
既に市場に織り込み済みでサプライズがあるとすれば、2017年利上げ回数だ。前回のFOMCでは3回が多数派と見られたが、市場は懐疑的で2回程度との見方が多かった。しかし、好調な米マクロ経済指標と米株価に自信を深めたFRBによる利上げトーク攻勢により、民間でも3回説が有力になりつつある。但しまだ市場には充分に織り込まれてはいないゆえサプライズ性を秘める。年3回ということは3、6、12月、或いは3、9、12月など3か月という短間隔が生じるからだ。更に民間では一部には4回説も出始めた。これまで民間エコノミストがFRBより慎重であったこととの比較が鮮明だ。
市場の注目点はいわゆるドット・チャートと、声明文の「緩やかな利上げペース」との表現の形容詞の使い方である。
なお、サプライズの可能性は、ほかにも4.5兆ドルに膨張したFRBバランスシートの縮小示唆と、今回の利上げサイクルの着地点(ターミナル・レート)の引き上げなどがある。
既に、債券市場では米国10年債利回りが「節目」とされる2.6%を超えた。3%になった場合の株価への影響がNY市場で議論されている。
外為市場では、想定以上の引き締めスタンスを見せると、ドル高により118円程度まで円安が進行する可能性がある。新興国は悲鳴を上げるが日本株には当面追い風となるシナリオだ。
いっぽうドラギ総裁の「デフレ克服宣言」により、俄かにECBのテーパリング(緩和縮小)も材料として浮上しつつある。一部では緩和縮小の前に、マイナス金利(現在、民間銀行に適用している0.4%)を引き上げることも検討と報じられた。マイナス金利の銀行経営への悪影響と、確定利息を求める投資家への配慮を映す見方と思われる。ECB関連の展開はユーロ買い・ドル売りの材料となる。2月雇用統計発表後の円高も、ECB発ドル安を受けた反応との見方がある。
そして、粛々と緩和を続ける日銀にも海外市場は注目している。日銀のテーパリングはいつのことか、などの議論が出始めている。
2)欧州情勢
ここにきて俄かに2つの出来事が市場で注目されている。トルコとオランダ・ドイツの急激な関係悪化と、スコットランド独立問題の切迫である。ユーロ安・ポンド安・円高を誘発しかねない。
まず、トルコ関連だが、キッカケはエルドアン大統領の権限強化を狙った改憲を問う4月国民投票だ。大きな票田となる在外トルコ人への選挙運動をドイツ・オランダ国内で計画したが、両政府がこれを拒絶。怒ったエルドアン大統領が「ナチ」呼ばわりしたことで、レッドラインを越える事態となった。オランダ総選挙直前の出来事ゆえ、既に支持率では1位の「オランダのトランプ」と呼ばれる自由党ウィルダース候補には追い風となりそうだ。それでもオランダ独特の選挙制度により、同氏がオランダ首相になれる確率は低い。とはいえ、最大の欧州リスクであるフランス大統領選挙で、ルペン候補が好感する状況になりそうだ。
そして、いよいよメイ首相からEUへの離脱通知時期が迫るなかで、スコットランドのスタージョン首相が反旗を翻す行動に出た。英国からの独立を問う2度目の住民投票の実施を強く要求したのだ。
市場への影響だが、欧州リスクは複合的且つ構造的要因に根差すので、短期的乱高下を繰り返しつつ秋までにユーロの水準が切り下がってゆくプロセスが考えられる。円には有事の買い圧力となるが、今週に関しては起きても一過性となる可能性が強い。
3)トランプ政権の財政政策
今週にも予算教書が発表になるかもしれない。13日には初の「閣僚会議」が開かれ、隣に座ったマティス国防長官に「軍事予算はきっちり出す。」と語る一幕もあった。しかし、共和党内でその財源を巡り意見の相違が顕在化している。伝統的に「予算に中立」の考えゆえ、軍事予算10%増、「驚異的」な減税を賄い、財政赤字を増やさないための財源が問題視されているのだ。ところが主たる財源となるはずの国境調整税導入には賛否両論が渦巻く。そこで銀行や株売買の利益への課税なども代案として出てきた。更に歳出カットでは環境保護庁の大規模リストラや、対外援助の削減などが挙げられる。いずれも選挙区の利害・住民感情などが複雑にからむ。
15日には、2015年11月に決まった債務上限引き上げの期限を迎える。また再引き上げで事態は回避されるだろう。とはいえ徹底的に議論する場とされる上院では、野党のフィリバスター(議事妨害)を止めさせるために上院議員100名のなかで60名の賛成が必要となる。共和党議員は52名ゆえ8名足りない。
果たして、ムニューチン財務長官が語ったように「8月まで」に議会を通せるのか。市場内では、年内に決まれば御の字、程度の見通しが常識化している。「2~3週間内に驚異的な税制改革」とのトランプ発言に乗った米国株式市場は忍耐が試されそうだ。
4)G20財務相・中央銀行総裁会議
ドイツで今週開催されるが、ムニューチン財務長官のデビューの場となる。通貨安競争回避についてなんらかの言及がありそうだ。人民元が念頭に置かれ、円がとばっちりを受ける可能性は少ない。とはいえ、米利上げ直後で仮に円相場が118円程度まで上がって120円も視野に入る状況になれば、「警戒水域」と見られるかもしれない。
5)原油安
FOMCを控え原油価格が突然下げ基調に入った。かりに市場がリスクオフになった場合に気になる材料となる。
利上げ後にドル高が進行するとコモディティーには下げ圧力がかかるだろう。先物買い残高を積み上げたヘッジファンドは焦っている。そもそもイラン(シーア派)とサウジ(スンニ派)の協調が持続するとも思えない。生産国の減産合意といっても米国が抜けている。OPEC諸国申告生産量の信頼性もかねがね疑惑の目で見られてきた。基本的に供給過剰の商品の価格を「公的談合」のごとき協調で調整すること自体に無理があろう。
総じて、株・ドル高要因と株・ドル安要因を天秤にかけ相場の展開を読むことになりそうだ。
株とドルの動き次第で金価格も決まる。
ちなみに、今日の日経朝刊マーケット面に金関連記事あり。