豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 「金」がつないだ年金人脈
Page2271

「金」がつないだ年金人脈

2017年3月13日

以下は日経ヴェリタス「豊島逸夫の逸'sOK!」に載せた原稿です。

意外なところで、森友学園について聞かれた。

米年金基金と日本株の話をしていたときである。

欧米メディアが「Abe crisis」と大きく報道しているので、気になったらしい。なにせ、日本株のウリのひとつが「政権安定度」である。特に、長期運用の年金マネーには強い訴求ポイントとなる。それが揺らぐかのような印象を与えているわけだ。これは、米年金の日本株への本気度を示す「状況証拠」ともいえる。興味なければ、そもそも森友学園についての情報を集めるようなこともあるまい。

ここで読者の方々は、どのような経緯で筆者が米年金基金と日本株を論じているのか、と思われるだろう。

これは、先日、日経ヴェリタス編集長とBSジャパンの「日経プラス10」に生出演した時にも語ったことなのだが、筆者は、米最大の年金基金カルパースのCEOを9年間務めたジェームス・バートン氏のもとで6年間働いたことがある。そこで、米年金の世界に「引き回し」てもらい、人脈が構築されたのだ。ちなみに、FT紙の記事で筆者のコメントが引用されたとき、肩書きが、advisor to pension fundsとされ、思わず苦笑してしまった。今回は、日本株について私的ワークショップで直接本音の意見を聞きたいとのことで、米国に招聘されていた。バートン氏は既に引退しているので、相手は、筆者が「つて」で知り合った米国の年金関係者たちである。筆者は、sell sideの販売業者でもなく、自由な立場の独立系ゆえ、忌憚ない見方の披歴を期待されているわけだ。

そこに森友学園の件が勃発。私的な集まりゆえ、ちょっと先延ばしにして、様子をみるか、との話になってきている。

いっぽう、既にTOPIXを買ったと公言している年金基金もある。同じカリフォルニアのカルスターズ(同州教職員年金基金)だ。運用規模はカルパースに次ぐ。そこのCIOは、年金業界では珍しく、メディアに気楽に出て、運用の話をするのだ。

なお、ジェームス・バートン氏の話で印象に残っているのは、伝統的資産とリスクが独立している投資媒体を求めて、ナパバレーの有名カリフォルニアワイナリーにもマネーを入れたこと。たしかに、ワインの出来不出来は、マクロ経済要因とは無縁である。誰が大統領になろうと、影響はない。現在の状況では、トランプリスクからは独立している、といえる。同様の発想で、ワシントン州の植林事業にも投資したとのことだ。そして、金(ゴールド)にも注目した。ここで、そもそも筆者との接点が出来たわけだ。当時、年金基金の金投資といっても、まさか金塊を保管するわけにもゆかず、手段がなかった。そこで、buy sideの発想で、金ETFという新商品が開発されたのだ。そのときは、プロジェクト参加者たちと、まさか、十数年後に、日本株の席で一緒になろうとは、夢にも思わなかった。

中国でも、ゴールドのアドバイザーとして取引所と銀行と親しくなり、「特別ルート」で、奥の院への出入りを許され、中国経済開放化の過程を内側から見る立場になった。金融の世界に人脈も増え、セミナー講師として人民銀行やSAFE(外為管理局)でレクチャーするまでになった。

中東も金選好度が高いので、金市場には「中東グループ」があり、例えばイラク戦争勃発のときには、事前に察知して有事の金を買っていた。ここでも構築した人脈と未だに、SNSを通じてつながっているので、生の情報が入る。

金は世界経済を映す鏡といわれるが、そのおかげで独立した今、多用な情報源が役立っているのだ。

2017年