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バーナンキ氏も警鐘、量的引き締めの行方

2017年9月22日

FOMC声明文、ドット・チャート、イエレン議長記者会見に大きなサプライズはなかった。


インフレ率の伸び悩みを懸念する民間エコノミストには、年内利上げの可能性を否定する見方も多かった。しかし、ドット・チャートに見る年内利上げ支持者の数は前回6月と変わらず16人中12人。

このFRBと民間の見解ギャップは、民間が歩み寄るかたちで市場では米国債利回りが急上昇。外為市場ではドル高・円安に振れた。

円相場は112円台半ば。金価格は1300ドルを割り込んできた。


とは言え、低インフレ傾向の要因についてはイエレン議長自身も「謎」と認めている。記者会見でも相変わらず「金融政策は決まったコースで進行するわけではない。」と語る。

量的緩和は異次元未体験ゾーンであったが、その「原状復帰」を目指す資産圧縮プログラム開始も「海図なき航海」を強いられる。


今回のFOMCは歴史的視点では金融正常化の第一歩だが、資産圧縮ペースが本格化するのは来年以降。果たして、市場の混乱を最小限に抑えつつ出口戦略を実行出来るのか。


2013年5月、当時のFRB議長バーナンキ氏が量的緩和縮小を示唆したことで市場が大混乱に陥った記憶も市場内には未だに強く残る。それゆえ、当事者のバーナンキ氏も自由な身になった今、自身のブログで口を酸っぱくして「資産圧縮は慎重なペースで。」と繰り返し述べている。

イエレン議長も2017年1月19日スタンフォード大学での講演で「FRB保有国債償還分の再投資プログラム終了が近づくと0.25%の利上げ2回分に相当する効果がある。」とのFRBスタッフの試算を脚注で紹介している。

それゆえ、利上げと資産圧縮の合わせ技は決まれば「一本」だが、オーバーキル(締めすぎ)のリスクも大きい。

今回のFOMCでは、資産圧縮プログラムの落としどころである最終的FRB総資産水準が現在の約4.5兆ドルから何兆ドル程度なのかについてのヒントは示されなかった。ちなみに、バーナンキ氏は経済成長とともに必要とされる通貨市中流通量が増えるのは当然で今後10年間には、それが2.5兆ドルを超えるとのFRBスタッフ試算を紹介している。更に、自身の見解ではFRB総資産の最適規模が現状とそれほど変わらない4兆ドルになる可能性にも言及している。

同氏は資産圧縮について落としどころを明示することが重要で、そこが不透明だと市場に不安感が醸成されるとも懸念している。


更に、資産圧縮は一旦開始されたら大きな経済変動がなければ、とにかく予定通りのペースで継続しないと市場が疑心暗鬼になる。その意味では今回FRBは「帰らざる河」を渡った。

そして、この資産圧縮プログラムが本格化する来年にはイエレン議長が任期終了を迎え、FRB幹部人事が極めて重要な市場の関心事になる。今回の記者会見でも予想通り、この人事についての質問も出たが、当然のことながらイエレン議長自身が語る問題ではない。

「壮大な金融政策の実験」の担当者が「低金利人間」を自称するトランプ大統領により任命される。大統領選挙期間中には「イエレン議長更迭」まで語ったが、最新の発言では「尊敬している。」と述べている。

全てはトランプ氏の胸の内である。この人事が明確にならなければ、2018年以降の米金融政策を現段階で議論しても虚しい。ドット・チャートにしても、現職のFOMC参加者16人による2018年以降の金利予測を見たところで、これまた虚しい。


市場は「第二のバーナンキショック」、そして「金融政策面でのトランプショック」に身構えている。

2017年