2017年12月22日
先日、本欄で日経マネーの「金」別冊を紹介しましたが同誌には月例コラムも書いています。題して「豊島逸夫の世界経済深層真理」。もう今月号で72回を迎える長寿コラムです。そこでどういうことを書いているのか紹介しましょう。昨日、最新号が発売になりましたが以下は先月号のコラム原稿です。こちらのコラムは日経マネーゆえ当然日本株がもっぱらの題材になります。
年金基金はヘッジファンドと異なりジックリ吟味して決断する。しかし、年金理事会レベルでひとたび日本株買いを決めると、こちらが驚くほど大胆に日本株リスクを取りに来る。運用規模が大きいので、ある程度まとまった量を買わねばリスク分散効果が得られないからだ。この長期マネーの視点では、衆院選与党圧勝は日本株のウリである政治的安定が期待できる材料となり特に歓迎される。但し、日本株高が日銀による買いの下支えの上に成り立ち市場全体が日銀依存症になっていることが懸念材料だ。短期勝負なら「サンキュー!日銀」「日銀には逆らうな(Don't fight BOJ)」となるのだが、長期運用では日銀の株ETF購入策の出口が気になる。勉強会でも日銀の株購入残高が20兆円を超えること、未だ今年目標6兆円の中で1兆円強の未達があること、黒田総裁の続投とすれば出口に言及するのはいつか、などが話題になった。
日本企業の業績改善は評価されているが「物言う投資家」の観点から、相次ぐ企業不祥事についてはコーポレートガバナンスの実態を厳しく問うてくる。
総じて、慎重論も残るがかなり内部のウォーミングアップは進み、年内から来年にかけて長期海外投資家マネーの参入が本格化する印象を強く受ける。リーダー的な大手年金基金が動けば、他の年金も後に続くという意外に日本的な集団だ。ひとたびエンジンがかかれば一斉に動く可能性を秘める。但し、トレンドフォローではなく、押し目狙いで徐々に買い残高を積み上げてゆくだろう。地味なので例えば「米国年金買いにより今日の株価が急伸」のような見出しにはならない。しかし、通期で見れば買いストックが積み上がる過程でボディーブローの如く株価形成には効く。
対するヘッジファンドは相場が荒れてボラティリティーが高まれば売買収益機会が増える。ヘッジファンド勢は「浮動票」であることを痛感する。
「出遅れたがいつ買いを入れるか」と焦るファンドもあれば、先んじて買った日本株ロング(買い持ち)ポジションの手仕舞い売りタイミングを虎視眈耽と狙うファンドもある。売買回転が速まる過程で相場水準が徐々に切り上がっている。こうなると、ドカ雪で積み上がった新雪の如く表層雪崩のリスクからは目が離せない。
もっとも、長期上昇トレンド形成のためには、この種の雪崩があった方が良い。「健全な調整局面」なしで上げが続けば、今回の日本株上げ相場が逆V字型の展開になるリスクがあるからだ。北朝鮮リスクや円高リスクが下げのキッカケとしては意識される。そして雪崩の後に残る根雪の部分が、年金などの長期マネーと日銀購入残高ということになる。
今回の日本株上昇相場は、短期マネー主導のロケットスタートで始まったが、徐々に長期マネー参入により衛星軌道に乗り巡航速度で廻り始めるシナリオとなりそうだ。
最後に筆者が日本人として歯がゆいのは、依然日本株市場の主役が外国人プレーヤーであること。日本人個人投資家には売りも多いと話すとニヤリとしている。彼らは日本国債売りを幾度となく仕掛け、その度に日本人長期保有者の堅固な壁に阻まれ失敗した。しかし、日本株市場なら外国人が動かせると足元を見透かして来ている。クロダ・プット(下がれば日銀が支えてくれる安心感)を最大限に利用しているのがヘッジファンドであろう。