2017年11月29日
議会デビューの場で、パウエル次期FRB議長候補は市場の期待に違わぬイエレン氏の良き「後継者」としての存在を印象付けた。マーケットには安堵感が流れる。筆者が注目した発言は、FRBバランスシート圧縮について「3~4年かけて、2.5兆ドルから3兆ドルまで削減」を目途と明示したこと。前例なき資産縮小オペレーションゆえ、最終目標となるFRBの最適資産規模の見えない不透明感が市場にはくすぶっていた。それゆえ、具体的な期間と落としどころを確認・提示したことで全体像が把握できた。これなら2013年5月の「バーナンキショック」の二の舞は回避できる見通しが立つ。
「金融機関への規制は充分に厳しい」と語り「金融機関の負担を緩和する配慮」にも言及した。同時に「規制緩和deregulationではない。これまでの規制を改めて検証することだ。」とイエレン氏のボルカールール堅持路線との整合性も強調している。総じて、中小金融機関への配慮を念頭に置いた発言だが、ドッドフランク金融規制改革法により業務縮小を迫られたウォール街には朗報である。
とは言え、市場が怖れるシナリオもある。FRB議長選には「落選」したタカ派、ジョン・テイラースタンフォード大学教授を、トランプ大統領がFRB副議長に指名する「敗者復活」のケースだ。同氏はFRBの恣意性を排し、ルールに基づく機械的な金融政策決定を重視する。一定の条件を満たせば自動的に利上げが決められる。資産圧縮ペースも変更できる。既定路線のペースで粛々と実行を想定している市場が最も嫌う「サプライズ」の可能性がちらつく。
ジェローム・パウエル氏を新FRB議長候補として紹介した記者会見で、トランプ大統領は「ジェイ」と親しみを込め呼び捨てた。「トランプ・ファミリーへ、ようこそ」とでも言いたげな所作であった。新任専務を「皆よろしく頼む」と紹介する社長の姿を連想させる。トランプ色に染まるFRBの全体像がタカ色かハト色か、市場は未だ計りかねている。
そして金融政策とならび、市場が注視する財政政策、特に税制改革にも一歩前進が見られた。共和党案が上院予算委員会を12対11の僅差で通過したのだ。こちらは「準決勝戦」までなんとかコマを進めた如き段階と言える。「反対」してきたコーカー・ジョンソンの両上院共和党議員が「賛成」に廻った背景には、やはり来年の中間選挙への配慮が透ける。とは言え、次の戦いには先送りしてきた「債務上限」問題再燃の可能性が待ち構える。コーカー氏も、今回の税制改革案の前提となる経済条件が満たされなければ、増税もやむなしと釘を刺す。財政健全性を重視する共和党の伝統が、税制改革案「決勝進出」への道を阻む。
その「経済条件」だが、昨晩発表された米消費者信頼感指数とケース・シラー住宅指数は「絶好調」と言って良い数字だった。その市場への効果は北朝鮮ミサイル発射によるリスク回避傾向を凌ぐ。
今晩には米7~9月期経済成長率改定値発表を控える。パウエル氏は自らが引き継ぐ米経済を2.5%成長と語った。市場はかなり控えめな数字と受け止めているようだ。
金市場の反応は、新FRB体制がハトならドル安でNY金高。タカならドル高でNY金安。トランプ税制改革の議会通過の目途がたてばドル高でNY金安。減税案が頓挫すればドル安でNY金高。北朝鮮有事の金は一時的で限定的。