豊島逸夫の手帖

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円高トレンドも「アメリカ・ファースト」

2017年12月15日


今週、一連の円高傾向に火をつけたのは日本時間13日夜に発表された米コア消費者物価上昇率上昇鈍化(前月比0.1%)だった。113.40前後から113.00台にまでドルが急落、円が急騰した。同日、その後にFOMC声明文発表。そして、イエレン議長最後の記者会見の間にドルは対円で刻々売られ続けた。FOMC声明前には一時113.20台にまで戻していたが、終わってみれば112.60前後まで円高が進行していた。米国経済見通しを上方修正したのに2018年利上げ回数予測は3回と変わらなかったことが「ハト派」と認識されたからだ。そして昨晩、日本時間早朝に再び円高の異変が起こった。112.80前後から112.10台まで円急騰。米税制改革共和党案が共和党内造反上院議員続出により年内議会通過の見込みが薄れたからだ。ルビオ議員(フロリダ州)が反対を明言。コーカー議員(テネシー州)も反対の姿勢。これで共和党議員52名の上院での票読みは50対50になる。この場合ペンス副大統領が1票の決定権を持つ。ところが党内には更に2名の「態度未決定」議員もいるのだ。コリンズ議員(メイン州)とフレーク議員(アリゾナ州)である。癌治療中の共和党重鎮マケイン議員は投票に駆けつける見込みだ。まさに薄氷の税制改革案である。ちなみにアラバマ州での民主党議員登場は来年からだ。

市場では年内税制改革合意への期待感が強かったのでNY株は上げから下げへ急展開。外為市場ではドルが急落したわけだ。


その後、NY市場がクローズしてアジア時間への移行時間帯に112.30前後まで戻したが、今朝の日銀短観には反応薄だ。
総じて、日本時間夜に円高が進行する傾向が顕著である。
外為市場の円相場も「アメリカ・ファースト」と言えようか。


なお、昨晩はECB理事会、ドラギ総裁記者会見という注目材料もありユーロは乱高下した。前評判では好調の欧州経済ゆえ、ドラギ総裁も踏み込んだ量的緩和縮小を語る可能性が意識された。発表されたECBの欧州経済見通しも2018年1.8%から2.3%に大きく上方修正された。記者会見でも、これでいよいよ量的緩和縮小から終了が視野に入るかとの質問が相次いだ。しかし、ドラギ総裁は経済見通しに「自信」を持つが、金融政策については「変更なし」とだけ語った。やはりインフレ率見通し低迷がネックになっている。この点は記者会見でも再三突っ込まれたが、答弁は歯切れが悪い印象だ。外為市場では記者会見前のユーロ強含み地合いが、失望のユーロ売りに変わった。
日本時間夜に動く外為市場。市場関係者の寝不足も慢性化している。


なお、本日日経朝刊マーケット面は「米利上げの影響、市場関係者に聞く」。各セクターで来年1~6月期の予想一覧。「金」のところは筆者の予測「1175-1290ドル」。活字にならなかったところは1200ドル割れでは中国・インドの実需殺到。買い支えられるので直ぐに戻す。地政学的、政治的リスクはティラーソン国務長官更迭のケース。それから低インフレ率が世界的な問題になっている。景気が良くなっても物価が上がらない。だから賃金も上がらない。ミステリーとされる。金市場は低インフレ⇒利上げ先送り⇒金は買いと解釈するが、ちょっと待って。金って、そもそもインフレヘッジで買われるのではないの?インフレの心配がなければ金の出番もないのではないの?という見方も成り立つね。だからインフレ率低迷は金にとって、良くもあり、悪くもあり、拮抗というところだね。

2017年