豊島逸夫の手帖

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米国新財務長官デビュー、ヘリマネ連想発言も

2017年2月24日


ムニューチン財務長官が、米国主要経済紙と米国経済テレビとのインタビューに相次いで応じ、様々な発言をした。議会承認にかなり手間取り、やっと就任の運びとなっただけに、焦らされてきた市場には話題を提供している。

まず、50年、100年などの超長期国債発行を「真剣に検討している。」と語った。「真剣に」と二回繰り返している。この問題は、トランプ政権積極財政の財源としてかねてから噂されていただけに、「すわ、新財務長官はヘリコプターマネー派か」と前のめり的憶測を債券市場内に誘発する結果になった。一般的に、極めて長い年限の国債を発行することは永久国債の連想を呼ぶのだ。

建前として、トランプ大統領は、国債発行に頼らず、民間資金で賄う構想を披歴してきた。TPPからPPPと揶揄されるほど、PPP(官民パートナーシップ)による資金調達には積極的だ。米国企業が海外に内部留保する巨額マネーを、本国回帰させるための税制軽減も、トランプ税制の目玉となっている。しかし、PPPによる資金調達は、大規模インフラ投資を賄う効果が限定的とバーナンキ氏も指摘している。更に、財政中立的、即ち、法人減税すれば、新たな部門での増税、あるいは歳出削減などで財政赤字を極力避ける方針だ。そこで、経済成長による税収増とならび、国境調整税が、新たな税収として見込まれているのだが、トランプ大統領自身が、あまりに複雑すぎると認めている。結局、従来型の国債発行に依存せざるを得まいとの見通しが根強く残るなかで、超長期債構想が言及されたわけだ。「やっぱり」と市場の反応は受け止める。


次に、税制改革を最優先課題と位置づけた。その議会通過は8月を目指すという。これは、決意表明と好意的に受け取れるのだが、いっぽうで、8月と具体的に時期を明示されると、あと半年以上も待たされれば、市場は焦れるとの見方も浮上する。特に、トランプ大統領が「2~3週間内に驚異的な税制対策を発表する。」と発言したことが、NY株連騰の大きな推進力になっているだけに、「満額回答」出ずば、反動の失望感も出やすい。

インフラ投資に至っては、具体化するまで数年はかかる。市場の忍耐が試されよう。
トランプ政権の経済政策が、3%経済成長率に貢献するのは2018年との発言も注目された。
更に、株価にも言及。これは、財務長官としては異例のことだ。
「株価は、政権の通信簿といえるか。」との質問に、大きく頷き「absolutely 全くその通りだ。米国への投資機会が増えることを反映している。」と答えたのだ。株価上昇は、トランプ政権への信認を表わす「通信簿」との解釈を示した。今後、株価が調整局面に入った場合、「信認欠如」なのかと突っ込まれるは必至だろう。

利上げ、金利関連についての質問もあった。

1月FOMC議事録が市場の大きな話題となっているときだけに、関係者は思わず乗り出してしまう。
財務長官としては、当然のことながら、「それは私の役割ではない。」とイエレン議長への配慮を語ったのち、一般論として、「歴史的低金利は長期化する」との見通しを述べた。だからといって、利上げを否定したわけではない。立場上、利上げへの直接的コメントを避けている。


そして、中国為替操作国についての発言では、トランプ大統領と若干の距離を置いた感がある。4月に財務省が為替報告書を発表するので、それまで待つとのスタンスである。一貫して強い反中国発言を繰り返すトランプ大統領とは、かなりニュアンスが異なった。中国に関して、通商問題と通貨問題を切り離して考える姿勢を見せたのも冷静な印象を与えた。同じゴールドマンサックス出身のコーン国家経済会議委員長と、ロス商務長官とも常に緊密な連絡を取っていることも明かした。


総じて、市場に直接的影響を与える発言は控えたが、中期的に注目される問題については、マーケットに考えるヒントを与えた。
前任のルー財務長官の時代には、もっぱら金融政策主導であったが、トランプ政権になり財政政策の戦略的重要性が飛躍的に高まった。新財務長官の発言が、イエレンFRB議長と並び、市場を動かすことになりそうだ。
マクロ経済的には、失業率4.8%と完全雇用に近い経済に、大規模インフラ投資と「驚異的」な減税を実行したら、どうなるか。しかも、労働力に組み込まれている移民には、強制帰還も含め制約が強まる。労働市場逼迫は不可避であろう。いっぽう、生産性は伸び悩んでいる。中期的には賃金インフレの影がちらつく。やはり、FRBも、年内を見据えれば、複数回の利上げをせざるを得ないことを、改めて実感した。


金価格は3月利上げ無しと読んで、一時1250ドルを突破する急騰。やはり金利を生まない資産ゆえ、利上げありや、なしや、には敏感に反応するね。

2017年