2017年3月8日
ビットコインETFについて、米国証券取引委員会(SEC)が審査中で、近々、判断を下すようだ。
ビットコインを有価証券化して証券取引所に上場すれば、金融商品となり、市場の裾野は飛躍的に広がる可能性を秘める。これまでビットコインに興味はあるが、慎重に見守ってきた投資家たちにとっても、市場参入ハードルが低くなることは間違いない。
但し、問題点も少なくない。
筆者は、金ETFを米国の証券取引所に初めて上場したとき、プロジェクトチームに加わり、5回SECに呼ばれ、もろもろ質問を受けた経験がある。
一般的に、金やビットコインなど「エキゾチック(目新しい)」な投資媒体のETF化、上場に際し、SECが最も厳しく吟味するところは、原資産の値動きに正しく連動するか否か、ということだ。専門用語でトラッキングエラーと呼ばれる「原資産の値動きからの乖離」をいかに最小限に留めるか。その方法論を詳しく聞かれる。そこで、中心的役割を果たすのが、指定参加者(authorized participant、略称AP)という存在だ。裁定取引で、乖離を解消させる役割を担う。
しかし、その前提として、裁定取引を可能にする一定の流動性が市場内に存在することが必要となる。マーケット・メーカー、つまり、常に売値買値を提示する市場参加者がいなくては、そもそも、売買が成立しない。ビットコインの場合、実績のあるマーケット・メーカーが見当たらない。
金であれば、既に、成熟した金市場が存在するのだが、ビットコインとなると、証券市場での売買実績はゼロである。
しかも、原資産=ビットコインの値動きは極めて荒い。秒単位で変動する価格に、果たして、連動できるのか。経験者として、疑問を感じる。
なお、ビットコインと金はよく比較される。
結論からいうと、価値の交換手段としては、ビットコインのほうに軍配があがる。小売店頭で、金塊を出しても、モノは買えない。
いっぽう、価値の保存手段としては、歴史的に、希少性に基づく実物資産の価値を有する金が優れている。
ビットコインと金の共通点としては、中国が最大の市場ということだ。中国人投資家の人民元不信を映す現象といえよう。それゆえ当局も神経を尖らせている。
中国の外貨準備が3兆ドルの大台を回復したが、ビットコインの規制強化なども、その一因であろう。
いっぽう、金については、中国人民銀行が、外貨準備のなかで公的金保有を増やし、自ら金購入量を発表して、IMFに申告している。
外貨準備の7割前後がドルに偏在しているため、通貨リスク分散の一環と理解されている。更に、「国際通貨」としての人民元への信認向上のための一策ともいえる。
とはいえ、個人投資家のレベルでは、ビットコインのほうが鮮度が高い投資媒体として注目を集めていることもたしかだ。
SECの視点では、投機的な中国人投資家が中心的存在であることが、懸念材料とされるかもしれない。
総じて、その話題性から、仮にNY証券取引所に上場されれば、かなりの話題となろう。しかし、派手なローンチングのあと、じり貧となる例もあまた見てきた。
金ETFは、米国年金の参入によって、取引量が飛躍的に増え、一時は残高がSP500株価指数ETFを凌ぐ規模にまで「大化け」した。
ビットコインETFは、リスク耐性の強い個人投機家が顧客の中心になりそうだが、新たな「代替資産」として、一定の潜在需要は見込めるであろう。