豊島逸夫の手帖

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パウエル氏指名、直後NY連銀総裁突然辞意の波紋

2017年11月6日

既に報道されているとおり、パウエル氏が新FRB議長に指名された。その直後の週末、イエレン現議長最側近のNY連銀ダドリー総裁(65歳)辞意報道が突如流れた。NY連銀総裁と言えば、他の地区連銀総裁と異なりFOMCで常任投票権を持ち特に影響力が強い存在だ。ダドリー総裁発言で市場が動く事例も多かった。現在進行中のFRBバランスシート圧縮オペレーションの実行部隊でもある。表向きはパウエル氏登板決定とは無関係とされようが、新議長指名直後トランプ大統領留守中の唐突な辞意示唆となれば、市場には様々な観測が流れそうだ。既に、トランプ色に染まるFRBを敬遠したと受け止めるヘッジファンドの声もある。

トランプ大統領はFRB次期議長発表記者会見の際、パウエル氏を伴い壇上で「ジェイ」とファーストネームで紹介した。その場での一連の所作には「私が指名した新FRB議長。ようこそトランプファミリーへ。」とでも言いたげな本音がちらついた。FRBは「独立」とされたが、紹介された後のパウエル氏の態度はトランプ大統領への謝意、配慮、更に忠誠感のニュアンスさえ滲んだ。

一方、次期議長指名により、イエレン氏は急速にレームダック化しつつある。12月利上げがイエレン体制最後の利上げとなりそうだが、パウエル体制最初の利上げが就任直後の3月とは考えにくく、6月の可能性が取り沙汰される。とは言え、NY連銀総裁辞任となればFRB空席ポストが更に増え、市場の不透明感は高まりボラティリティーが高まる可能性がある。

なお、パウエル・トランプ体制の試練は次にNY株が大きく調整する場合だろう。トランプ大統領は株高を自らの業績にしているので、株安になると性急に即効性のある金融政策対応を迫るかもしれない。放任してきた独立FRBを牽制するようなツイートなどが出かねない。マクロ経済的にも、景気循環で米国が次に不況期に入るケースでは、財政政策より機動的政策対応としての利下げの余地が限られる。パウエル新議長が出来る時に利上げしておくというタカ派的姿勢に傾く局面もあろう。その時、低金利人間を自称するトランプ大統領が「ジェイ」と真っ向から対立するような呟きをすると市場は混乱する。外交政策でもティラーソン国務長官の外交路線重視に対して、トランプ大統領は公然と強硬路線を主張して軋轢が顕在化している事例もある。

トランプ大統領は無難なFRB議長人事で自ら指名した人物を金融政策当局トップに据えた。しかし、地区連銀総裁などFOMC参加者の中では、利上げ決定、資産圧縮ペース変更などでトランプ大統領の意向に反する「造反組」が出るかもしれない。NY連銀総裁は地区連銀総裁筆頭格ゆえ、新任総裁が果たしてタカかハトかも気になるところだ。パウエル氏がどこまで独立性を維持できるか、そして内部調整能力も問われることになりそうだ。

金市場は未だパウエル体制を瀬踏み中。雇用統計にはドル安に振れたりドル高に振れたり。新規雇用数は増えたが事前予想は下回る。賃金は依然伸び悩み。それでも12月利上げはあるよね、という解釈。NY金は結局1260ドル台。

2017年