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利上げに潮目の変化、注目は12名の動き

2017年9月15日

8月の米消費者物価指数が前月比で0.4%、前年同期比では1.9%上昇した。これを受けて、円はアルゴリズムの初期反応により瞬間的に111円台をつける場面もあったが、その後110円台前半まで円高に振れている。来週のFOMCでもインフレ率は大きな論点なので、この経済指標に当惑し、消化にも慎重にならざるを得ない。

一方、原油価格が上昇。WTI期近10月物が50ドルの大台攻防となった。

物価伸び悩みを嘆いていた市場で、一転「インフレ・リスク」というような表現が飛び交う。インフレヘッジとして買われる金が、殆ど死語に近かった「インフレ懸念」を一つの要因として買い直されている。

CMEのフェド・ウォッチによる12月利上げ確率も41%台から50%台に跳ね上がり、俄かに利上げ肯定派が勢いを得ている。

特に市場で注目されていることは、今後中期的に超大型ハリケーンの復興需要による物価押し上げ効果が無視できないことだ。

来週開催されるFOMCの時点では、ハリケーンの短期的GDP引き下げの可能性が議論されるかもしれない。しかし、12月FOMCの頃には議論が復興需要にシフトする可能性がある。

とは言え、未だ冷めた見方も根強い。

8月の米消費者物価上昇は、ガソリン価格主導でコア指数では1.7%の上昇と、3か月連続の前年同月比横ばいである。更に、FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数も、前年同月比1.4%に留まっている。

そもそもインフレ率低迷は、一時的というより構造的要因に根差すとの見解も目立つ。一番新しいところでは、NY連銀ダドリー総裁が

(1)消費者がネットで店頭価格差を迅速に把握できる

(2)リアル店舗からネット通販へのシフト

(3)その結果として消費者のブランド・ロイヤリティーや売り手の価格支配力に変化が生じていること

などを講演で語っている。

9月FOMCではインフレ率見通しについて活発な議論が予想される。市場は特にFOMC参加者の金利見通し分布を示すドット・チャートに強い関心を寄せている。

前回6月のドット・チャートでは、2017年末のFFレート(政策金利)について、1.125%を見込む参加者が4名、1.375%見込みが8名、1.625%見込みが4名であった。

現行の政策金利ターゲットが1%~1.25%(中間値1.125%)ゆえ、1.375%予測は利上げ年内あと1回派、1.625%予測は年内あと2回派ということになる。

最新の利上げ確率(フェド・ウォッチ)では、予測ターゲット・レンジが1%~1.25%(利上げせず派)が46.5%、1.25%~1.5%(あと1回利上げ派)が50.9%、1.5%~1.75%(あと2回利上げ派)が2.0%となっている。

9月FOMC後に発表されるFRB経済予測の中のドット・チャートにいかなる変化が見られるか。

これまで10月資産圧縮開始に続き12月利上げは締めすぎとの見解が市場では急速に増え、それに呼応してドル安が急進行してきた。それだけにその支配的観測がひっくり返ると、反動のドル高・円安も急激となろう。既に一部投機筋はドル売り円買いポジション巻き戻しに動き始めている。しかし、この程度は未だ氷山の一角だ。

FOMCドット・チャートで、年内利上げ肯定派(1回及び2回)が前回の12名を上回るようであれば、一気に112円から113円程度まで円安急進行も視野に入る。対して、その人数が12名より少なくなれば、再び円高基調に戻り107円を超す円高進行の可能性すら考えられる。

それほどに強い影響を与えかねない9月FOMCに市場は固唾を飲み身構えているのだ。

なお、「慎重」に開始されるはずの資産圧縮、そして2018年の金利予測も見逃せない。しかし、特に後者についてはFRB幹部に空席が目立ち、今後FRBがどのようにトランプ色に染まるのか全く不透明だ。人事ゆえFOMCで議論されるはずもなく、イエレン現議長が今回の記者会見でコメントできることでもない。当面の注目は、まず12月利上げ有無に限定せざるを得ない。

・FRB経済見通し ドット・チャート 前回6月

https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20170614.htm


・CME フェドウォッチ

http://www.cmegroup.com/trading/interest-rates/countdown-to-fomc.html/?redirect=/trading/interest-rates/fed-funds-flash.html

2017年