豊島逸夫の手帖

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トランプ氏よりイエレン氏に反応する市場

2017年3月1日

いつもの赤色から、紺縞のネクタイ。テレプロンプターを慎重に読み、大統領らしく語る。選挙運動中の過激発言は封印。保守派集会とは様変わりのトランプ氏であった。

とはいえ、「南の国境との壁」には明確に言及。米国第一主義のトーンは一貫して変わらず。

市場の視点では、内政中心で、通商・通貨問題には言及少なく、円・日本株に直接的影響は軽微であった。中国に関しては「中国がWTOに加盟して以来」貿易環境が悪化したことを語った程度で、対中国強硬派バノン首席戦略官の影響は感じられなかった。かなり融和的姿勢といえよう。

通商関係では「自動車に関税をかけている国」を引き合いに出した程度で、日本が火の粉を浴びるような発言もなかった。

無難な内容ともいえるが、「具体性」を期待していた市場としては、不透明感は晴れず、モヤモヤ感は残る。果たして、いつまで「期待感」で相場を維持できるか。市場の忍耐が試される。春までに経済政策の具体的進展なければ、「sell in May 5月は売り」の相場格言が心理的に響く。

そもそも、トランプ氏の今日の役割は、国民とならび議員に協力を訴え、賛同を求める「セールスマン」であった。しかし、国境調整税を含め税制改革の中身を語ることはなかった。あるいは、できなかった、のであろう。通商面でも、ロス商務長官が、滑り込みで議会承認を得た直後ゆえ、準備不足の感は拭えない。

結局、財政政策の全容は見えず、市場は当面、金融政策動向で動くことになろう。

まずは、3月FOMC(3月14~15日開催)

CMEの3月利上げ確率が、27日の38%から、28日には一気に62%まで急上昇している。

その背景には、28日に相次いだ米国地区連銀総裁の利上げ発言と、改善著しいマクロ経済指標が挙げられる。

まず、サンフランシスコ連銀出身のイエレン議長に近いサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が、3月利上げにつき「真剣に検討」として、政策金利を引き上げても、米国経済は健全なペースで成長し続ける、との見方を示した。

次に、イエレン議長、フィッシャー副議長に次ぎ影響力があるといわれるニューヨーク連銀ダドリー総裁が、「金融引き締めへの切迫感が強まっている。」と語った。1月FOMC議事録で話題になった利上げの時期がfairly soonという表現の解釈も、「比較的近い将来」と説いてみせた。

更に、今年のFOMCで投票権を持つフィラデルフィア連銀ハーカー総裁が「2017年は3回の利上げが適切。今年後半か来年前半にもインフレ率2%回復可能。」との見方を示した。

そして、28日に発表された米国マクロ経済指標でも、2月の米国消費者信頼感指数が3.2ポイント上昇して、114.8という15年7か月ぶりの高水準を達成。

更に、代表的不動産指数のケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)も、前年同月比5.6%の伸びを見せている。

トランプ氏よりイエレン氏の影響が優る実態を市場は見せつけられた。

財政政策は準備不足、金融政策は臨戦態勢の対比が鮮明だ。

当面、円高に歯止めがかかり、円安に振れやすい地合いといえる。

日本株にも、トランプ発のサプライズを回避できたことで、一定の安堵感が漂う。

地味なトランプ大統領に、地味に反応する市場である。

金市場に関しては、1260ドル台を突破したところで、利益確定売りが出始め、今日のトランプ演説で3月利上げの可能性が高まり、売られやすい地合いになった。トランプ演説後は1240ドル台でとりあえず推移している。

2017年