豊島逸夫の手帖

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ロシア疑惑は長期化必至、気になる利上げ

2017年5月19日

モラー特別検察官がロシア癒着疑惑解明のため任命された。元FBI長官で通常10年の任期を特に懇願され12年も勤めた人物で、人望も厚く超党派の支持がある。この特別検察官の任命にあたっては、トランプ大統領も口をはさめない。「誰も逆らえない」と言われるほどの独立した権限を与えられる。

但し、この問題の長期化は必至だ。まずはスタッフをリクルートして、組織を立ち上げ、予算の手当てをするだけでも数か月はかかると言われる。過去の事例でも、詳細な捜査のうえで結論が出るには数年かかっている。その過程で新たな火種が発覚する可能性もある。トランプ大統領の任期4年の間に終結するか否かさえ不透明だ。

市場にそこまで待つ忍耐はない。

「Show must go on」

マーケットを劇場とすれば、ショーは続けねばならない。

リスクオフで様子見ばかりを続けるわけにはゆかない。

「ワシントンの出先機関のスタッフを増やし、ホワイトハウスとFRBを常にチェックする態勢を強化する」

このNYの大手金融機関の動きが、今の市場テーマを浮き彫りにしている。

いつ飛び出すかも分からないロシア・サプライズに身構えつつ、足元では6月利上げに影響を与える米国マクロ経済指標を追う「日常」に戻りつつある。

18日にはフィラデルフィア連銀製造業景況指数が前月から16.8ポイント上昇と、事前予測18.0程度を大きく上回って注目された。新規失業保険申請件数も4000件減で3週連続減少した。これも悪くない。マクロ経済指標悪化、ロシア疑惑波乱の余波で60%台にまで低下した6月利上げ確率も73%前後まで「反騰」している。とは言え一時は80%台まで上昇したことを考えれば、利上げを織り込んだドル高の修正局面は依然続いている。

なんといっても金利水準が低い。10年債利回りが2.22%台。イールド・カーブ(利回り曲線)のフラット化が鮮明だ。

ここからは、FRB高官の発言などが材料視されそうだ。

株式市場は、まだリスク意欲が通常に戻ったわけではないが、やはり「Show must go on」の声が聞こえる。ファンダメンタルズの企業業績が改めて吟味されている。

市場の不安感を示すVIX指数も、2007年以来の10の大台割れから、17日には一気に15台まで急騰したが、18日には14台とやや落ち着きを見せている。金価格も1230ドル台から1260ドル台まで急騰したが、1240ドル台まで反落している。

世界的なマネーの流れの視点では、トランプ政権不安で漁夫の利を得たのが欧州株だ。フランス大統領選挙で極右大統領誕生は回避され、ドイツ地方選挙ではメルケル首相率いるCDUの勝利が続いている。長期的構造問題をかかえつつも、足元ではEUに関する極端な悲観論は後退した。政治リスクを排除すれば、欧州経済はおおむね改善傾向にある。

一方、円相場はやはり地政学・政治リスク由来の円買いと、利上げをにらむドル買い・円売りの綱引きが続きそうだ。円安115円の水準を試した後、円高110円の水準を試した。このレンジが当面居心地の良い水準として意識されている。

ワイルドカードはイラン。

保守強硬派の候補者が一人にまとまったので、選挙結果がどうなるか極めて不透明な状況だ。しかも、このタイミングでトランプ政権は「核開発」ではなく「弾道ミサイル開発」を理由に追加的経済制裁に動いている。第二の北朝鮮と言われるイランの地政学的リスクは原油生産地に密接するだけに、原油市場にはシリア以上のインパクトを与える可能性がある。欧米市場は対北朝鮮並みの警戒感で見守っているのだ。

まずは、世界のマーケットは「水入り」と言うところか。

金は中期的に利上げで1200ドル、ロシア・イラン・北朝鮮などで1270ドルという感覚である。

2017年