豊島逸夫の手帖

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ギリシャ国債発行再開は「茶番劇」

2017年7月25日

ギリシャがいよいよ新規国債発行再開に乗り出す。

しかし、ギリシャ債務問題の根源は解決からはほど遠い。

なんと言っても、ギリシャの脆弱な産業基盤では、40兆円以上に上る同国の公的債務を、まともに返済することは不可能に近い。

そこでIMFは、まずは債務削減が必要と主張する。それが出来なければギリシャへの融資には応じられない、という姿勢を貫いてきた。

一方、実質的に最大の貸し手であるドイツは秋に総選挙を控える。ギリシャへの債務削減は選挙民からの反発必至だ。

両者の言い分が平行線を辿ってきたが、ここにきてIMF側が条件つきながらもギリシャへの融資に応じることになった。

一方、ギリシャ国債を買う投資家の立場ではECBのお墨付きが欲しいところだ。具体的には、ECB量的緩和プログラムの買い入れ国債対象にギリシャ国債が入れば、投資家にも一定の安心感を与える。しかし、7月ECB理事会後の記者会見でドラギ総裁はこの点について聞かれ、ギリシャ側が救済条件を確実に満たすことを行動で示さねば市場の信頼は戻らない、と素気無く答えた。

そのギリシャ側の対応だが、チプラス首相は更なる緊縮を約束している。しかし、ギリシャ国民の我慢はギリギリの限界に達している。アテネでは「もはやこれ以上の年金カットには耐えられない。」と叫ぶデモがまたぞろ出始めている。確かに筆者が現地で知り合った市民たちも「蓄えも費え、明日からは教会のお世話になる。」というような事例が中産階級にまで波及しているという。なかには「こんな借金の山を返せるわけもないだろう。」との開き直りさえ見られる。

こうなると借金した方より貸した方が困る事態となる。

返済のアテもない貸し金だが、ドイツ国民は債務削減によりみすみすギリシャに血税を注ぐことに強い抵抗を示す。とは言え、債務削減せず放置すれば早晩貸し金は臨界点を超えてしまうだろう。

おそらく秋のドイツ総選挙後に本格的債務削減交渉に入ると思われる。

このような状況下で、ギリシャは自立の資金調達である国債発行再開に乗り出すわけだ。

買い手として考えられるのは、当面ギリシャ人個人投資家とヘッジファンドくらいのものか。ただ、マイナス金利下で欧州機関投資家が必死の「イールドの追求」に明け暮れるなかでは、ギリシャ5年債で予想される4~5%前後の利回りは魅力的に映るかもしれない。

実はギリシャは2014年にも国債発行を再開している。当時はギリシャ経済回復についての楽観論が市場に流れていた。しかし、その後ギリシャは結局借金地獄から抜け出せなかった。

今回のギリシャ国債発行再開も、経済回復を誇示したいチプラス政権と、とりあえず貸し倒れのリスクは後退したことを示す出来事にしておきたいEU、特にドイツ側との暗黙の了解の産物にも見える。現地からは「茶番劇」という表現さえ聞こえてくる。

ここは投資家として冷静な見極めが肝要だろう。

写真はアテネの金買い取りショップのオーナーと。

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そして、アテネの旨い物はタコのオリーブオイル・グリル。シンプルだけど新鮮な蛸にサラッと熱を通して美味。それから日本でも最近はやりのギリシャヨーグルト。前菜でパンにつけて食べる。

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2017年