2017年6月1日
米国経済を患者に例えれば「リーマンショック」という危篤状態で、緊急病棟にて大量の「量的緩和マネー」を点滴で投与された。過剰投与だが有事対応としてやむを得ない措置だった。その効果あって、一般病棟に移され量的緩和の点滴ももはや増やすことはせず、血中濃度を一定水準に保つための投与に限定された。これからは点滴を減らしてゆく(FRBバランスシート縮小)。ゼロ金利という劇薬も止めて、段階的利上げというリハビリ期間に移行しつつある。
それなのに米国ドル金利が上がらない。これが金利を生まない金には追い風となっている。
31日のNY市場で10年債利回りが一時2.2%の大台を割り込み、今年に入っての最低水準に接近している。
3月利上げ直後には「壁」と言われた2.6%の大台を試す勢いだったが、後が続かなかった。
失業率は4.4%まで下がり、ほぼ完全雇用に近い状況で、市場が見込む6月利上げ確率も9割を超える。それでも金利が上がるどころか低下傾向にある。年内開始とされるFRBバランスシート縮小政策も、市場にショックを与えないように極めて慎重に導入されるであろう点が注目され、当座のドル長期金利押し上げ効果は限定的と見られる。
FRBがインフレ目標としているPCE価格指数は、4月分が前年比で1.7%増。コアで1.5%増。目標の2%に近づいているとは言え、足踏み状態にも見える。
31日発表されたベージュブックでも、物価上昇については「緩やかで、変わらず」との表現で言及された。「いよいよ目標接近!」というモメンタム(勢い)が伝わってこない。
この低金利シンドロームの根源的理由について様々な議論が交わされるが、依然特定出来ていない。FRBが利上げを誘導しても長期金利が上がらない状況をグリーンスパン元FRB議長は「謎」と表現したが、イエレン現議長の時代になって再びこの「謎」が浮上している。
市場にはこの長年の「謎」を解明するアカデミックな議論の結論を待つ忍耐はない。
そもそもトランプ大統領の大型減税とインフラ投資の財政政策が金利を押し上げるシナリオだったのだが、その実現性はいまや闇の中である。
地政学的リスクも安全資産としての米国債へのマネー流入を加速させている。特に米国によるICBM迎撃ミサイル実験の「イメージ動画映像」が米国メディアに流れ、北朝鮮リスクがやっとNY市場でも切迫感を持って認識されるようになった。
英国総選挙もここにきてマンチェスター・テロという突発的要因により、メイ首相率いる保守党が過半数を獲得できるか不透明な情勢になってきた。EU離脱を問う英国民投票から一年ほど経って、再び市場は英国発「まさか」に身構えている。
米国債と同じく安全資産とされる金の価格が31日には10ドルほど急騰して、当面のレンジの上値抵抗線と見られた1270ドル台を突破した。短期的視点では、昨日の本欄では買い値頃感と書いたが、今日の水準はちと高い。中期的視点では、やはり利上げトレンドの中でドル安はいずれドル高になると思う。
なお、恐怖指数といわれるVIXは依然10台の低水準にあるが、市場の過度な楽観が徐々に懸念材料として受け止められている。楽観が裏切られた時の市場の動揺が危惧されているのだ。
そのような市場環境の中で、今夜は重要なISM景況感指数が発表され、明日はいよいよ6月FOMC前、最後の雇用統計発表と続く。
まずは、6月利上げという市場にほぼ完全に織り込まれた材料の後始末から波乱含みの6月相場が始まる。