豊島逸夫の手帖

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私の米国での人種差別体験

2017年8月31日

以下先日、日経ヴェリタス「豊島逸夫の逸's OK!」

に書いた原稿です。

筆者はニューヨークやチューリッヒの職場で欧米人に囲まれ、日本人ただ一人という状況で働く経験をしてきた。客人扱いではなく同僚ライバル関係になる人たちなので、もろに人種差別の本音を感じさせられることも多かった。建前は勿論、皆「平等」なのだが、当方の人事評価が高かったりすると本音がむき出しになるものだ。

こんな経験もあった。

米国のとある企業を訪問した時のこと。スイス人6人と日本人1人というグループで、まず受付で広報担当女性が出てきた。受付の席には明らかにLGBTと分かる若者が座っており「当社はリベラルな社風でございます。」と説明された。そして営業、企画、経理と各部門を廻り、最後に奥のボードルームにガヤガヤと入ろうとした時、ガードの男性が筆者に近づき「サー、ここからは入れません。ホワイト・オンリーです。」と囁いたのだ。広報の女性が慌てて繕ったが気まずい雰囲気になった。10年ほど前の話で、勿論極めて例外的なケースだが、米国人の建前と本音の差を見せつけられる思いであった。

そのような本音は薄れつつはあるものの、一部には未だに残る。トランプ大統領のような気性の激しい人物であれば、記者会見の席で、白人至上主義と反対派の衝突について「喧嘩両成敗」の如き発言で、普段抑えていたものが露わになってしまう。この記者会見に同席していたコーン国家経済会議委員長がうつむき加減で複雑な表情を見せていたことが印象的だった。次のFRB議長候補にも名前が挙がっているコーン氏は、パリ協定離脱時にも政権内で異論を唱えていた。市場では、現政権で数少ない「良識派」とされる同氏が政権を去るような事態になれば、かなりの影響が出ると指摘される。ユダヤ系の娘婿クシュナー上級顧問、娘のイヴァンカさんも果たしてどう対応するのか気になる。

解散が決まった大統領助言団のなかで先頭を切って脱退した製薬会社メルクCEOに対するトランプ氏のツイートも、他のCEOたちを刺激した。「ぼったくり薬価を引き下げることでも考えろ。」rip off(ぼったくり)という強い表現を浴びせられたのはメルク社だけ。同社CEOがアフリカ系アメリカ人であったことは偶然の一致ではなかろう。

最近はやりの言葉を使えば、トランプ氏は人種問題で明らかにレッドラインを越えてしまった。

大統領は制御不能、政権は機能不全の症状が顕著だ。

ビジネス界が大統領にそっぽを向けば、PPP(官民パートナーシップ)に依存する大型インフラ投資の実現性も益々危うい。

今や、市場のサプライズは「大型減税・インフラ投資」が実現することのほうにある。

日本人としては、混迷するトランプ政権そのものがドル安円高要因になることが気になる。

更に、北朝鮮への対応も瀬戸際外交が続くなかで、このような大統領が何をするか分からないという不安感が増してくる。

市場の焦点である利上げに関しても、こじれる人種問題という思わぬ阻害要因を考慮せねばなるまい。

差別というタブーに触れたことで、トランプ政権最大の危機の引き金になる可能性さえ絵空事とは言えない状況とマーケットは身構えている。

2017年