豊島逸夫の手帖

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英国EU離脱交渉の問題点

2017年3月31日

メイ首相は、移民は規制して関税のかからない単一市場からも離脱する、という「強硬離脱」を採る方針だ。そのうえでEU諸国と新たな枠組みの自由貿易協定の締結を模索する。

英国民の最大の関心事はEU域内からの移民の制限問題だろう。EUは域内の国籍を持った人ならどの加盟国に住んで働いてもOK、ビザも不要とする。その結果、貧乏な東欧から英国など相対的に豊かな国に労働者の大移動現象が起きてしまった。東欧だと平均月収が5万円前後という国も珍しくない。それがイギリスに行けば、最低賃金でも月20~30万円くらいは稼げる。

しかもEU国籍ならイギリス人と同じように公営住宅に住んだり、生活保護を受けることも可能だ。病院や学校の利用について差別されることもない。

例えばブルガリアから孤児をイギリスに送り、子供手当(3~4万円くらい)をもらって故郷に送金する、というような事例もあった。

このように英国民の不満は鬱積しているので、メイ首相は一定の技能や能力がある労働者を受け入れ、単純労働者は制限する方針だ。とはいえ英国内で、例えばホテルやレストランなどは、移民の従業員に依存しているケースも珍しくない。

更に、これまではEU加盟国で取得した医師免許があれば英国内で働くことができた。筆者がギリシャで会った歯科医の女性もロンドンで働きたいと言っていた。また、EU域内の大学は基本的に加盟国出身者ならば、当地の国民と同じ入学資格を与える。

このような英国内に住むEU加盟国の出身者と、EU域内に住む英国人の権利は今後も保障されるのか。数百万人いるので大きな問題となる。

そして、英国の北アイルランドとEU加盟国のアイルランドの国境はこれまでオープンであったが、今後、国境管理をどうするのか。

このような難問が他にも山積みだ。今後の離脱交渉がまとまらないと、次の段階となる「英国とEU諸国の包括的な通商協定」などに話が進まない。

英国EU離脱問題は長期化が必至といわれる所以だ。

ゆえに、市場への影響もボディーブローのごとくジワリと効くことになろう。

なお、明日土曜日朝9時半から、ABC朝日放送の90分ライブ情報番組「正義のミカタ」に生出演して、この英国EU離脱問題を吉本の芸人さんたち相手に分かりやすく説きます()。 近畿(朝日放送)、東海(メ~テレ)、北陸(北陸朝日放送)でOA。

2017年