豊島逸夫の手帖

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減税期待後退、引き締め警戒先行の市場

2017年4月6日

FOMC議事録は注目材料とされるが、結局、市場は動かないことが多い。マーケット参加者たちもたかをくくっていた感がある。しかし、今回はその経験則が覆された。

ダウ平均は約200ポイントの幅で急落。ADP雇用統計の予想を大きく超える好転による上昇分が吹っ飛んでしまった。ドルと金利も急速に下げる結果になった。

では、今回のFOMC議事録のどこが市場変動要因となったのか。精査してみよう。

まず事前にも注目度が高かったFRBバランスシート縮小議論に関して、以下のようにかなり具体的な言及があった。

「殆ど(most)のFOMC参加者は、年後半、債券再投資政策の変更が妥当であろうと判断した。」

「殆どの参加者は、金利が主要な金融政策手段との見解を示した。」

「FRB保有債券量縮小は、緩やかな且つ予見可能であるべきとの点で参加者は合意した。」

「対象となる債券は、国債と住宅ローン担保証券(MBS)の両方とする見解が一般的であった。」

「利下げが必要なほど重篤な経済ショックに遭遇した場合には、債券再投資政策再開が適当との一部の意見もあった。」

年内開始妥当と考える参加者が「殆ど」とされたことには「そこまで議論が煮詰まっていたか」とのサプライズ感があった。市場はまだ織り込まない段階で、受け入れ準備も充分ではなくかなり動揺した。それゆえ市場間で反応に違いが見られる。

株式市場は新たな金融引き締めを警戒して売りに走った。

いっぽう、債券・外為市場ではFRBバランスシート縮小が利上げの代替手段として理解され利上げ回数が減るので、ドル金利低下、ドル安の方向に動いた。

この背景は本欄3日付け「英国EU離脱、FRB2%目標達成、米利上げ代替案」を参照されたい。

次に、FOMCで珍しく株価水準が議論された。

「2~3人(a few)の参加者は、最近の株価上昇の理由として、強い経済成長期待より法人税減税や投資家のリスク許容度の増加を挙げた。数名(some)の参加者は、株価が標準的評価基準ではかなり高いとの見解を示した。」

ここでは特に、現在の株価が割高との発言が株式市場には響いた。

FOMC参加者が株高株安を論じるべきではないとの意見もあるが、直接的表現なので市場は反応する。

そしてトランプ財政政策についても意見が述べられた。

「参加者は、財政政策の時期や内容の変更についてかなりの不安定性があることを強調した。数名(several)の参加者は、本格的な財政刺激政策は2018年まで始まらないと予想した。」

市場ではトランプ大統領の経済政策実現性について疑念が高まっているところに、年内は不透明感が続くことを連想させる表現が出た。市場の不安感は募る。

ほぼ同じタイミングでライアン下院議長(共和党)が「税制改革は医療改革法案より時間がかかる。」と発言したことも注目された。

総じて、財政政策がもたつく間に、金融正常化加速が先行する状況のなかで市場の模索が続きそうだ。

金価格も波乱。急落後、急騰して1250ドル台維持。結局、株安、ドル安、金利安は全て金には追い風である。


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2017年