2017年10月13日
メイ首相ピンチ。保守党大会では、演説中に咳発作が止まらず、壇上に「辞職願ひな型」を持った人物が乱入し、挙句の果てには背景の貼り文字の一部が落下してしまうというなんともカッコ悪い光景が落ち目の印象を与えた。その後、いよいよブレグジットも行き詰まったとの観測からポンドが昨晩は一時暴落。ところがその後、英国に離脱まで2年の移行猶予期間が与えられるかもとの報道が流れポンドが急回復。どうなるのか、混沌としてきた。
メイ首相自身も、超ハード・ブレグジット、英語で「no deal」と言われるのだけれど、要は協議離婚ではなく、けんか別れでもやむを得ないと示唆する。(bad dealならno dealのほうがマシと述べている)。EUとの離脱交渉がまとまらないと2019年3月には時間切れno dealとなるのだが、その場合はWTO(世界貿易機構)のルールに従い、例えば自動車には10%、農産物には20~40%の関税が課せられる可能性も浮上する。英国に住むEU国民、EU圏に住む英国人、それぞれ3百万人と百万人規模とされるがその身分も宙に浮く。最悪のシナリオでは、国際線航空機発着が一時ストップとか英国内に薬を輸入できなくなる可能性も指摘される。いよいよ崖っぷちの重大局面といえる。
そして米国。
12日のホワイトハウス定例記者会見では、予告なくケリー大統領首席補佐官が登場した。「大物」ゆえ、すわ重大発表かと市場はざわめいたのだが、結局ポジティブ・サプライズとなった。檀上での同氏の受け答えが自然かつ落ち着いた印象で、雑音が目立つホワイトハウス内をしっかり掌握している印象を与えたからだ。トランプ政権になって、最も笑いの絶えない記者会見とも評された。
とは言え、市場に一瞬緊張が走ったのは次期FRB議長人事について質問が飛んだ時だ。トランプ大統領が「2~3週間で決める。」と明言していたので、そろそろ何らかの具体的手掛かりを市場は模索している。しかし、同氏は結論が「some time away」まだしばらく先のこととコメント。マーケット側は肩透かしを食らった感じだが、すかさず「パウエル、ウォーシュの有力候補二人以外に、第三者がいるので手間取っているのか」との憶測も浮上した。
一方、その記者会見の前には、IMF総会開催関連会合の席で噂のパウエル現FRB理事が講演。時節柄その発言が注目された。
「世界経済正常化の中の新興国経済展望」との題目であったが、講演の後半では「FRB金融政策の軌跡、市場の反応」とのサブタイトルで語る箇所もあった。
「段階的金融正常化への期待感は、金利乱高下の可能性を弱める。将来見込まれる米政策短期金利に0.5%のタームプレミアム(長期債保有への上乗せ金利)を加えても、金融危機前の水準より遥かに低い。」
「とは言え、市場の動きはnoisy 雑音が多い。段階的、且つ事前に明示された金融政策のもとでも、市場は潜在的にボラタイルである(値動きが激しい)。ここまではマーケットもなんとか持ちこたえてきたが、急旋回して思わぬ激しい反応を見せることもある。」と語り、2013年の所謂バーナンキショックを例に挙げ警鐘を鳴らした。
議論自体にさほど新鮮味があるとは思えないが、時の人が語るとインパクトがあるものだ。
50ベーシスポイントという具体的数字も出しながら、低金利が続く状況を示唆したので、やはりイエレン路線を継承するハト派と市場は改めて受け止めた。
例えば金利を生まない金価格も、反騰局面が一巡して相場の頭が重くなっていたが、このパウエル発言で再び1300ドルの大台回復期待の買いが入った。
事程左様に、マーケットはFRB議長人事を強く意識している。トランプ大統領のことゆえ、ツイッターで唐突に「人事発表」を呟くかもしれない。この目先のモヤモヤ感が晴れないと、ドル相場も膠着から脱することは考えにくい。
日本は衆議院議員選挙一色だが、欧米市場の視線の先はFRB高官発言とトランプ大統領の決断に集まっている。