豊島逸夫の手帖

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トランプ相場の均衡点を模索する市場

2017年3月27日

株式市場は具体性のある材料を好む。

トランプ大統領就任後のトランプラリー再点火は、2月9日の「2~3週間内に驚異的な税制改革を発表する。」との「決意表明」であった。

更に、ムニューチン財務長官が税制改革法案に関して「8月までに議会を通す。」と述べたことも歓迎された。

しかし、驚異的な財政改革の具体的内容は、未だまとまらず、明らかになっていない。

ムニューチン財務長官も24日に財政改革の議会承認が「秋」までもつれこむ可能性に言及した。

そもそも、トランプ氏もトランプケアと呼ばれる医療保険改革案を「手が届くところになり、摘みやすい果実」と見ていたようだ。ゆえに、大型減税案という本丸の前座で片付けようと目論んだのであろう。

ところが、共和党内の特に財政均衡派の抵抗が想定以上に強く、先週はスパイサー報道官が「大統領は毎日夜遅くまで話し合っている。」と語るほどの難局となった。執務室で腕まくりして電話攻勢をかける姿が目に浮かぶ。

しかし、結果はトランプケア撤退という最悪のシナリオになった。マーケットがトランプ相場の先行きに懸念を抱くのは当然であろう。

国境調整税導入で、米国第一主義の実現と1兆ドルとされる歳入確保の一石二鳥を求めるトランプ案には、小売業や輸入産業から強い抵抗がある。

とはいえ、これをもってトランプラリー終焉の烙印を押すことも早計だ。

税制改革そのものが頓挫したわけではない。そもそも、万人を満足させる税制改革などまずあり得ない。「驚異的」か否かはかなり主観的判断となろうが、かなりの減税には依然、企業の期待感が根強い。個々にトランプ大統領に呼び出され対談した大企業トップたちは、一様に賛同の意を示す。「法人減税、規制緩和、大規模インフラ投資により、あなたがたのビジネス環境を改善するから米国内での雇用を増やしてほしい。」との説得に応じて続々と新規雇用増計画などが発表されている。好む好まざるにかかわらず、米国のビジネス社会はトランプ・モードに入っている。

株式・為替・商品市場も今は現実路線を模索する過渡期にある。トランプラリーの急進展はスピード・オーバーであったとの反省から巡航速度を探っている。

本日も円高が進行して株価は軟調だ。株式・為替両市場ともに反省モードの真っ只中といえよう。118円までの円売りオーバーシュートがあったのだから、110円を超える円高に振れても相場の力学では驚くほどの現象ではない。

120円に近い円安ドル高は、トランプ大統領が受け入れ難く牽制球が投げられるリスクがある。いっぽう、110円を超える円高ドル安が急進行すれば「トランプ政権への信認欠如、ドルへの不信任投票」と見做されかねない。

このレンジの中で市場はオーバーシュート、アンダーシュートを繰り返しつつ、徐々に均衡点らしき水準に収れんしていく過程にあるようだ。

このなかで金価格は1250ドルの大台を突破した。金はドルの代替通貨といわれる。金を買うという投資行動は、米ドル更にトランプ氏への不信任投票なのだ。もし、市場の大半がこの不信任票を投じたら、金価格など1400ドル以上に急騰するだろう。しかし、現実に金を買っているのはマクロ市場全体から見れば一部に過ぎない。従って、1400ドルに急騰するとは思わない。但し、トランプ政権への漠とした不信感から、やはりオーバーシュート、アンダーシュートを繰り返しつつ、徐々に底値を切り上げていく展開と見る。まずは、1250ドル以上になると中国・インドの現物需要が後退して先物主導の上げになるので振れは大きくなろう。

2017年