豊島逸夫の手帖

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有事の円高とイエレンドル高のせめぎ合い

2017年4月17日

NYのヘッジファンドのなかでもアルゴリズムを駆使して超短期売買を繰り返すCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)のコンピュータモデルには「有事なら円買い」とインプットされている。NY市場でいまや円はVIX指数のごとく市場の不安感を示すベンチマークと見做されるようになった。

そこで朝鮮発の有事に日本が巻き込まれる事態になれば、かなりの円買い注文が自動的に発動されることになろう。

いっぽう同じヘッジファンドの範疇でも、世界経済の流れを読むグローバル・マクロ系は、有事の円買いは一過性と割り切る。中期的には、利上げ・FRB資産縮小という米金融政策由来のドル買いを重視する。トランプ大統領のドル高牽制口先介入も、支持基盤であるラストベルトを意識しての発言で、その影響は長続きしないと見る。

いっぽう足元の市場で話題になっている北朝鮮で有事の円買いか、円売りかとの問題は、想定される有事の具体的内容により反応が異なりそうだ。

安倍首相がその可能性に言及した北朝鮮の化学兵器使用能力が実証されるような事態、あるいは核兵器使用の可能性が格段に強まる事態になれば、安全通貨としてドルが買われ、円は売られる展開になるシナリオが考えられる。

しかし現実的には、中国もそのような破壊的シナリオは望むところではない。北朝鮮・米国・中国、そしてロシアもお互いを牽制しつつ、妥協点という落としどころを模索しているのが現状だ。「瀬戸際牽制外交」が続く状態では、いまや市場に定着した「有事の円買い」の発想が市場には根強く残る。

ここで見逃せないことは、朝鮮半島緊迫により6月の利上げが見送られるケースだ。地政学的要因が世界に拡散して株全面安となれば、FOMC内のタカ派でも利上げは「様子見」ということになろう。これはかなり強いドル安・円高要因だ。

地政学的リスクに米国利上げがからむような市場環境は、これまでになかった現象である。東日本大震災の時に円が買われたケースとは市場環境が異なる。経験則に基づく「市場の方程式」では解けない。

更に、これまで4~5月の市場ビッグイベントとされ警戒されたフランス大統領選挙も第一回投票が今週末日曜日に迫ってきた。これまでルペン候補とマクロン候補が勝ち残り、5月7日の決選投票を迎えるというシナリオが優勢であったが、極左のメランション候補が10%台後半まで支持率を急速に伸ばし、三つ巴から4候補者入り乱れての混戦模様になっている。

北朝鮮問題にフランス大統領選挙がからみ、地政学的要因と政治要因が共振し始めた。

今週に関しては、どこまで円高が進行するかという点が注目されよう。

なお、短期ヘッジファンド主導の相場ゆえ、円買いポジションが巻き戻しされる時の円安もかなり急激な動きとなりそうだ。

そのなかで有事の金買いは続き、1290ドル台。

市場では10年前の北朝鮮核実験の時は「有事の円売り」で10か月ぶりの円安値をつけた事例が語られる。それがいまや「有事の円買い」。

変わらないのは「有事の金買い」。当時の新聞も今の新聞も「金、有事の買い」を囃す。プロの視点では、新聞が囃す頃には一相場終わり。ただ今回は、日替わりメニューのごとく地政学的イベントが勃発するので、これまでより長く持続している。

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なお、ポテチショックをプロ目線で見ると、日米経済対話を控え北海道産ジャガイモ依存から米国産ジャガイモ使用も視野に、外資と業務提携する日本のポテチメーカーの本音も透ける、という話をテレビで語った。カルビーの株主構成をみると筆頭がペプシコ(スナック菓子では世界最大)、2位が創業者一族で17%。それ以下には3%以下だが外国人投資家が名を連ねる。カルビーは北米の販売力は弱く自社ブランドでは限界があるので、ペプシコ向けのOEMに甘んじる。ペプシコは日本市場に弱く、カルビーの国内シェアを利用したい。そんな思惑も透ける。米国産生ジャガイモの日本への輸入には規制がかかっているので、日米経済対話でもやり玉にあがるかも。日米ジャガイモ戦争!??そこまで読むとポテチショックも深いよ~。



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そして、卓球17歳の平野選手、やったね。

世界ランク1位、2位、5位の中国人強豪を準準決勝、準決勝、決勝と撃破した。中国の完全アウェーの状況で。体幹がぶれない強さ。特に、リオ五輪金メダルで世界ランク1位の丁寧を3-2で破ったゲームは、観衆の丁寧応援が凄かった。中国は相手の実力を認めた時は、自国の選手を叱咤激励するような論調になる。平野選手本人は「私の誕生日だったので、誕生日に相手が丁寧かよ~と思いましたが、凄くないですか、これって。」とか、なんとも17歳の女子風であっけらかんとしていた(笑)。

日本を背負う代表選手みたいな悲壮感が無いのがこれまたいい!

2017年