豊島逸夫の手帖

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8月14日~16日のブログ

■8月14日 ロフテッド軌道相場

今回の北朝鮮ミサイルに関連して頻繁に使われる「ロフテッド軌道」とは、通常のミサイルより高度を上げて発射するミサイルの軌道のことを意味します。「迎撃ミサイルが届きにくい程の高度」とも言えます。但し、問題は大気圏再突入の衝撃に耐え得るのかということ。小型化核弾頭を搭載したとして、大気圏再突入時にどうなるのか。これは北朝鮮側でも実証されておらず分かりません。専門家の見方は、そこまでの技術水準には未だ達していないということです。但し、このまま放置すれば発射実験を重ね改良されてゆくでしょう。どこかで開発を絶つ必要もあります。

さて、この「ロフテッド軌道」という用語は、今の「有事の金」相場にも当てはまりますね。急上昇してピークに達した後、大気圏に再突入の段階で急落して、燃え尽きる可能性があるからです。

「有事の金」は売りと私は普段から語ってきました。マスコミが有事と騒ぐ頃にはプロはとっくに金を買って、いつ売ろうか出口を模索しているからです。そんな時に素人衆が「すわ、有事だ、金買いだ」とノコノコ入ってくれば、それこそ「飛んで火に入る夏の虫」でしょう。

今回の北朝鮮有事は、これまでより遥かに深刻なので、いつもより長続きする有事相場になるかもしれませんが、それでもホイホイと上昇軌道に乗ろうと試みることには賛成できません。

金は平時にコツコツ買い増すものです。ただ金の価格が動かないと、「平時」には「金の輝きは失せた」とか「金バブルが弾けた」などとマスコミが書きたてるので、素人衆の気持ちとしては気味悪くて買いにくいでしょうね。

そこで、まとめ買いはせず、積立感覚で買い増してゆくことがお奨めなのです。

しつこいようですが、金は売買で儲けようとしてもプロでも至難の技。あくまで長期的にストックとして残高を増やしてゆく感覚が重要なのです。

■8月15日 北朝鮮リスク緩和、米国人種差別問題沸騰

北朝鮮側がグアム向けミサイル発射を「少し待つ。」と若干ながら引いた姿勢を見せたことで、市場の緊張感が和らいできました。平たく言えば、米国防長官に「本気で撃つぞ。」と言われ、さすがに「ちょっと待て。」という感じでしょうか。

そうこうしている間に、米国内ではバージニア州での白人至上主義者と抗議団体との衝突に関するトランプ発言が重大問題化しています。

白人至上主義集会に抗議して集まっていた反対派の人たちのなかに、白人至上主義側のリーダー格と思しき人物が車をバックさせながら突っ込んだのです。女性一人が死亡という大きな事件になりました。

更に問題化したのがトランプ大統領からの最初の声明です。

「各方面=on many sidesでの憎しみや暴力を強く非難する。」との言い回しで、いかにも「喧嘩両成敗」の如きニュアンスで語ったのです。KKKなど特定の白人至上主義団体を名指しで非難しなかったので「人種差別容認」とも取れる発言と受け止められたわけです。

この言動に対して、これまでトランプ大統領の経済政策に共鳴してきたビジネス界のトップたちからも、一斉に批判的声明やツィートが相次いでいます。特に問題視されているのは、製薬会社メルクのCEOが大統領助言団から辞任したことに、トランプ大統領が怒りのツイートをしたこと。「ぼったくり薬剤価格を下げることでも考えろ。」と例によって激しい言葉を浴びせました。同社社長はアフリカ系黒人です。他の製薬会社の社長は白人系で、こんな言い回しで批判されませんでした。

なんと言うか、あの大統領は感情的になると、普段抑えていたものがどうしようもなく噴き出てしまうのでしょうかね。

大統領側近がさすがに「殿、ご乱心。」とばかり言い繕い、大統領自身も事件後48時間経って、具体的な厳しい非難声明を出したのですが時既に遅し。

世論、そしてビジネス界からも見切られたような状況です。

次の支持率調査では、更に数字が落ち込むでしょうね。

米国人にとっては、地球の裏側の北朝鮮より国内バージニア州の人種差別事件の方が遥かに大きな問題です。

結果的に市場では、相対的に北朝鮮のリスクが後退したかのような展開になりました。

金価格も1290ドル台から1270ドル台まで反落中です。

円高は一服。株価は持ち直しました。

ただ、北朝鮮リスク「後退」というより「一服」という感じでしょうね。相場としても、急騰後、当然来たるべき反動の売りという段階でしょう。

■8月16日 北朝鮮ミサイルは「中国全土も射程?」

北朝鮮ミサイルは米国内を確実に標的に出来る可能性は低いが、北京ならほぼ確実に射程距離に入る。中国の「半植民地」を防ぐためなら考えられるシナリオだ。そんな情報も乱れ飛んでいる。

北朝鮮が公開したミサイル発射映像の中で、日本海に落ちたにも関わらず、中国領土内を延々と映して最後に北京上空を大写しにしたというのだ。

仮に北朝鮮が中国をも威嚇するような素振りを見せれば、トランプ大統領はほくそ笑むだろう。あれだけ圧力をかけても北朝鮮との仲介役としては動かなかった中国が、これで動かざるを得なくなるからだ。

まぁ確率は極めて低いシナリオだが、北朝鮮が追いつめられると、何をしでかすか分からないのがリスクの一つと言えよう。

とは言え、何をしでかすか分からないリスクと言えば、やはりトランプ大統領かな(笑)。

昨日本欄で、人種差別問題についてトランプ大統領が「喧嘩両成敗」と書いたが、日本時間今朝5時からの記者会見で「白人至上主義者たちと反対派たちの双方に非あり。」と言ってのけた。名奉行の大岡裁きで「喧嘩両成敗」なら納得できるが、迷大統領のお裁きは世論の反発を強めるだけ。事件直後の声明では「on many sides」各方面に非ありとのニュアンアスで語って炎上したのだが、今朝の記者会見では「on both sides」双方に非ありと語ったわけだ。

そもそも、この記者会見はトランプ経済政策の目玉「大型インフラ投資」が主題のはずだった。ところが大型財政出動に関しては、例によって「老朽化した橋、道路、空港を全面的に新しくする。」とぶち上げるだけ。肝心の財源についての言及はなし。そして質疑応答となるや、大型インフラ投資に関する質問など殆ど出ず、人種差別問題関連一色(ちなみに北朝鮮関連の質問もゼロ!だった)。

ツイッターではトランプ大統領が「大統領助言団から次々抗議の姿勢でCEOたちが抜けてゆくが、代わりはいくらでもいる!」と相変わらず挑発的ツイート。

なお、昨日本欄で次の支持率調査では、更に数字が落ち込むでしょうと書いたが34%まで落ち込んだ。

それでもコアのトランプ支持層の結束は固い。大統領助言団から辞任しないCEOも多い。特に防衛産業などは、やはりトランプ頼み。

市場はワシントンの政治には構っていられないと言わんばかりだ。大荒れのワシントンに比しNY市場は平静だった。

2017年