豊島逸夫の手帖

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トランプ不信を映すドル安、金急騰

2017年6月7日

NYのヘッジファンド業界で今週話題になっているのが、レイ・ダリオ氏のトランプ政権を憂う発言だ。同氏は運用総額が16兆数千億円相当に達するブリッジウォーターという巨大ヘッジファンドの創設者ゆえ、注目度も極めて高い。

彼はトランプ氏勝利を歓迎し経済活性化を期待していたが、今週明確に変心したことを明らかにしたのだ。

「全体と部分に分ければ部分、調和と対決に分ければ対決を選ぶ強い傾向がトランプ大統領に認められる。心配である。その影響は我々に及ぶ。」とSNSを通じて語った。

今週ロシアゲートについて議会証言する予定で注目されているコミー前FBI長官も、ブリッジウォーターのジェネラル・カウンセル(法律顧問)を3年間務めた経歴がある。

信頼している人物が窮地に立つことが心配のようで、彼を評価する発言もしている。

ここにきて米国経済界とトランプ政権の軋轢が一段と目立つようになった。一時はホワイトハウスに招かれた大企業トップたちが、揃ってトランプ氏に理解を示した蜜月期もあった。しかし、特にパリ協定脱退が決定的な溝を作った。多くのトランプ支持のCEOたちまでが反対するなかで強行したからだ。特に多国籍企業にとって米国の孤立化は由々しき問題である。

それでもトランプ氏の財政政策案に期待を残す経済人も多い。

しかし、その期待は時を追うにつれ揺らいできた。

トランプ氏は今週を「インフラの週」と位置づけ、目玉の大型インフラ投資を盛り上げるはずだった。しかし、具体的な内容は依然として不透明だ。結局、失望感という逆効果を生んでいる。

更に減税案に関しては、議会がまず債務上限引き上げを承認することが前提になるのだが、これが容易ではない。なかなか本丸の議論にたどり着けない苛立ちが市場でも顕在化してきた。

ヘッジファンドによる外為市場での大規模なドル売り攻勢がその一例だ。

今回のドル売りは、トランプ政権に対するマーケットからの不信任投票という側面が透ける。

その結果、ドルインデックスも年初には100の大台を突破して103程度までドル高が進行していたが、今や96台に沈んでいる。

円も煽りを受け急伸した。トランプ氏に対する不満が遠因となっているところに今回の円高の特徴がある。ドル高に警戒感を示したトランプ氏が、自ら招いた不信感でドル安に軌道修正できたという皮肉な結果となった。

それでもトランプ氏は懲りずにイスラム系のロンドン市長をテロ対策が甘いと繰り返しツイッターで批判し、党内からもひんしゅくを買った。レイ・ダリオ氏の言う「対決」を好む事例だが、マーケットにはそのようにツイッターをする時間があるなら、本丸の経済政策を優先してくれとの思いが募る。

ジム・ロジャーズ氏も対談でトランプ氏への苛立ちを隠さなかった。

米国は明らかに漂流している。経済の流れもおぼつかない。同じドル安でもドル金利急落に加え「米国売り」という悪性の症状を感じる。

まずは全米が固唾を呑むコミー前FBI長官の議会証言で新たな爆弾発言が飛び出すのか。6日の記者会見では同氏について問われ「幸運を祈る。」と一蹴した。

結果次第で「悪いドル売り」が加速すると金価格は更に上がる。

市場はトランプ相場の負の連鎖からの脱却を模索しているのだ。

なお、金価格は1300ドルに迫る水準に達した。

明日、英国総選挙、ECB理事会、コミー前FBI長官議会証言と大きな材料を控える前日にフライング気味。現物買いは引っ込み、今回は先物よりETF主導の相場展開ということを昨日NY証券取引所のフロアで実感した。

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買いの主体がヘッジファンドなので過熱気味ゆえ、高値警戒圏に突入した。200日移動平均線などテクニカルには良いかたちだが、結局この人たちはゼロサムゲームの買い手である。中国・インドの現物市場は高値圏で超閑散だ。

そして今日の食べ物写真はNYではまったライ麦100%サンドの数々。今日は卵と小エビのサンドを選んだよ。これで十分一食分になる。OPEN RYEというお店。

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それから糖質ゼロのクッキー。ノルウェー名物。全粒穀物などが材料。これも旨い。

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2017年