豊島逸夫の手帖

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米CEOの反乱、市場にも衝撃、円高・金高に波及

2017年8月17日

バージニア州で起こった白人至上主義者集会での惨劇が、トランプ政権を揺るがす事態にまで発展。市場では上昇中の株価を押し下げ、円高・金高を誘発している。

事態を決定的に悪化させたのは、日本時間16日朝5時から行われたトランプ大統領記者会見だった。大型インフラ投資促進のための規制を緩和する大統領令発表の場であったが、質疑応答は人種差別問題に対する大統領の対応に集中。トランプ大統領が記者の質問を遮りつつ、台本なしでほぼ一方的にまくしたてる展開となった。その過程で白人至上主義者たちのなかにも「良い人」はいる、抗議者たちのなかには暴力的行動も見られる、と「喧嘩両成敗」的な発言をしたことが非難の火に油を注ぐ結果になった。前日に声明文を読み上げるかたちでKKKやネオナチを名指し非難に転じていたが、台本なしでは感情の起伏が激しい大統領の本音が露わになってしまった。

既に始まっていた大統領助言機関から米大企業CEOたちの「辞退」が加速。「良いネオナチなどはいない。」などの非難コメントが相次ぎ、助言機関からの「集団退去」の如き様相となり、遂に「助言機関解散」の事態となっている。

16日のNY市場も後場はこの話題で持ち切り。FOMC議事録発表や北朝鮮リスクを凌ぐかのようなインパクトである。

金融界でもオピニオンリーダー的存在であるダイモンJPモルガン・チェースCEOやフィンクブラックロックCEOらが相次いで大統領批判声明とともに助言機関を脱退した。

「人種差別問題に寛容な大統領」の側につけば、顧客・株主そして従業員の反感を買う結果になりかねない。そもそもCEO個人としての良識が問われる。

共和党内でも公然と大統領批判の声が上がり始めている。

更に政権内の反応も注目される。今のところ沈黙を保っているが、問題の記者会見に同席したコーン国家経済会議委員長は、パリ協定脱退に関しても異論を唱えていた。イヴァンカさんと娘婿のクシュナー上級顧問の動きも現状では不明である。

市場の視点では、期待してきた大型減税・大型インフラ投資などの経済政策が議会を通過する見込みは益々遠退いてきた。とは言え、既に市場はトランプ経済政策早期実現をほぼ見切っているので、そもそも期待度は低かった。それゆえ地政学的リスクの如き突発的ショックの感覚は希薄だ。但し、今後の展開次第ではトランプ政権最大の危機に発展する可能性は無視できない。オバマケアは日常生活の直結する重大問題ゆえ世論の関心も強かった。一方、人種差別に寛容な態度を示すことはタブーに近い。トランプ大統領は、そのパンドラの箱を開けてしまった。この事実は重い。政権支持率の更なる低下は避けられまい。市場への影響もズシリと重く長く効くことになりそうだ。「問題の記者会見中継を滞在先で見て、ただならぬ予感がしたので、夏休みを切り上げ仕事に戻った。ファミリーは不満だったが。」と肩をすくめて話すヘッジファンド運用担当者の苦笑いが印象的だ。

16日には7月FOMC議事録公表という、これも大きなイベントがあった。今回のFOMCで資産圧縮時期を発表すべしとの意見もあったが、慎重論が上回り、relatively soon比較的近い時期という表現に落ち着いた経過が議事録からは読み取れる。結局FRBはハト派トーン強しとの解釈で、外為市場ではドル安・円高に再び転じた。ドル安を受け、金は1280ドル台を回復。

そこに人種差別問題も、今や円高・金高のもうひとつの要因とされる。

財政政策の実現が揺らげば、利上げの必要性も薄れる。トランプ政権支持率が更に低下すれば、リスクオフの円高さえ誘発しかねない。

マーケットは孤立化するトランプ大統領の言動から益々目を離せなくなっている。

写真は札幌の高層ホテル32階から見た感動的な日の出までの空の変化模様。

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2017年