豊島逸夫の手帖

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中国リスクひやり、マオタイ酒バブルも

2017年11月27日


前回速報した上海株急落劇の詳報。

先週の中国株急落の引き金は中国10年債利回りが急騰。4%の心理的節目を一時突破したことだった。その背景には金融当局の規制強化の流れがある。共産党大会後に習近平政権は、債務累積を抱える金融部門の安定化に本腰を入れることが予想される。既に今年前半には銀行規制に当たる銀監会(中国銀行業監督管理委員会)のトップに「改革派官僚」として知られる郭樹清氏を抜擢。来年3月に退任予定の中国人民銀行周小川総裁の有力後任候補としても名前が挙がる人物だ。郭氏が銀監会就任後、まず強力に打ち出したことは、銀行が販売するが組成はシャドーバンクという立てつけの理財商品を、銀行簿外扱いからバランスシートに入れ込み透明性を高めることであった。奇しくも米国と中国で「ハイイールド商品」のリスクが顕在化している。

次の規制強化対象セクターはフィンテックだ。
例えば、余額宝と呼ばれるMMF(マネー・マーケット・ファンド)がある。アリババが展開する電子決済サービス「アリペイ」と連動しており、スマートフォンを使い手軽に投資できる。利回りも一年物定期預金1.5%より高い4%前後だ。リスクは、即日解約できるが運用先は中長期の債券や不動産向け融資ということ。既に一人当たり上限を設定するなど規制に動き始めている。


更に学生をターゲットにしたネット融資への規制も強化される。急速に人気化したが貸付金回収などで悪質な行為が相次いだ。調達資金の一部が不動産市場に流れている可能性もある。人気の波に乗って先月は大手「趣店」がナスダックに上場したが株価は下落基調だ。金融当局も規制に動かざるを得ない状況である。

「泣く子も黙る。」と言われる銀監会トップ主導で、現地報道では「規制の嵐」の予感が市場を揺らす。金融当局の引き締めというより「締めつけ」が強まれば、構造改革の過程で破たんの連鎖が信用不安を醸成する可能性も否定できない。債券市場はそのリスクを先取りして動いている。


中国国債需給に関しては、民間商業銀行が地方債保有を優先させた結果、国債買い入れ余力が減少している。背景には不採算投資案件を抱える地方自治体向け融資削減のため、当局が融資を地方債にスワップさせている状況がある。民間商業銀行側の本音は問題含みの地方自治体が発行する債券など保有したくはない。そこで当局も地方債を中国人民銀行の担保適格債券に指定するなどの「甘味剤」をつけている。

更に中国債券市場の利回り上昇の理由としては、米利上げの影響と物価上昇リスクが挙げられる。


なお、先週の上海株急落のもう一つの引き金は「マオタイ酒」であった。安信証券がマオタイ酒会社の「貴州茅台集団」の株価上昇予測レポートに対して、上海証券取引所が異例の警告を発したのだ。同社株価は年初300元台から直近では700元を突破して過熱していた。しかし、そもそもマオタイ酒は高価ゆえ、しばしば投機買いの対象にもされてきた経緯がある。賄賂にも使われ腐敗撲滅キャンペーンで一時は売上も急減したが、潜在的には根強い需要があり回復も速かった。そこに証券取引所が株価予測に対して苦言を呈したことで、資産バブル抑制の兆しかと市場では材料視されたわけだ。


そして人民元の不透明感も懸念される。人民元が下げ過ぎればマネー流出を招く。逆に高過ぎれば中国製品の国際競争力が弱まる。中国人民銀行も人民元相場管理に関しては危うい綱渡りを強いられているわけだ。苦肉の策として、毎日の人民元基準値算定に新たな「恣意的要素」を組み入れたことも人民元管理の不透明性を高め、市場は当局の真意を計り兼ね神経質になっている。

とは言え、人民元急落に発する世界株安の再現がすぐにでも起きるような切迫感はない。市場内ではこれまで今年は上昇基調にあった中国株には当然の調整局面と捉える見方が目立つ。

一方、長期視点に立てば、先週の上海株異変は中国の膨張する公的・民間累積債務が臨界点に達するリスクの存在を改めて市場に想起させた。


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中国大手商業銀行支店内の理財商品コーナー。リスク開示も不十分なまま売られている。

2017年