豊島逸夫の手帖

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米量的緩和縮小(テーパリング)のリスク

2021年1月8日

「ブルーウェーブ期待」の高揚感に埋もれた感はあるが、6日に12月FOMC議事要旨が発表された。
そこではテーパリング(量的緩和縮小)の可能性についての議論が明示されている。
極めて慎重な表現だが「量的緩和の政策変更に際しては、十分な条件が満たされることが必要。更にその発表も、かなりの予告期間が重要」と念には念を入れて2013年のバーナンキショック再来のリスクだけは回避するとの強い意向が滲む。

更にテーパリングについては「2013~14年の時のような流れで実施されよう」とも記されている。すわ、バーナンキショック警戒予告かと身構えてしまうが「前回同様に極めて緩やかなペースで実行する」との意思表示なのだ。

とは言え、且つ市場も覚悟の上だが量的緩和の出口は不可避だ。
ブルーウェーブにより民主党主導で兆ドル単位の財政支出上乗せが実行されれば、年後半にはかなりの経済回復が期待できる。
パウエルFRB議長は努めて悲観的に経済見通しを語り、金融超緩和継続の必要性を説くが、ここにきて米国経済指標には好転の兆しも見え始めた。

特に12月ISM製造業指数が67に急騰。同サービス業指数も57.2と高水準を維持した。
更にインフレ期待を示す指標であるBEI(ブレークイーブンインフレ率)が2年ぶりに2%の大台を突破したこともウォール街で話題になっている。

商品市場ではCRB商品価格インデックスに上昇傾向が顕著だ。産業素材部門は2年半ぶり、食料品部門は3年半ぶりの高水準を記録している。

直近に発表された11月米国貿易赤字も681億ドルと約10年ぶりの高水準だ。旺盛な消費意欲により、輸入が輸出を上回る状況である。
この上に、更に兆ドル単位の財政投入が実行されれば、ワクチン接種進行次第だが、年後半のFOMCで「テーパリング」がより深く議論される可能性は少なくとも絵空事とは言えまい。

このような経済環境を察してか、8日にはハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が「テーパリングは少なくとも今年年末まで起きる可能性は低い。」と微妙な言い回しで質疑応答中に発言した。勿論「ウイルス次第で最大限の慎重感で検討されるべき。」と厳しい条件を付している。

ボスティック・アトランタ連銀総裁も4日に「ワクチン接種普及により経済が好転すれば、年内のテーパリングもあり得る。」と語っている。

株式市場は今や「ブルーウェーブ祭り」の様相だ。まずは蜜月期間のバイデンリフレを囃して株価は上昇中である。バイデン増税も気になるところだが、そこはパウエル議長が追加量的緩和で助け舟を出してくれるとの期待感が強い。特にジャネット・イエレン次期財務長官とジェイ・パウエルFRB議長の「阿吽の呼吸での連携」が心の支えになっている。
しかし、財政政策と金融政策の一体化も、やり過ぎれば出口議論が市場に冷や水を浴びせるリスクが生じる。

年前半は市場もFRB頼みだが、年後半にはFRBが市場の敵役に転じるリスクにも留意すべきであろう。
バーナンキショックの再来ともなれば、金も換金売りに晒された後に株安で買い直されるシナリオが想定される。

さて、国内はいよいよ緊急事態宣言。私見だが、タイミングが遅いし甘いね。根本的に法的措置で人流を2か月は絶たないと持続的回復は困難と見る。それが抜け穴だらけの緊急事態対応だ。外国とのビジネス交流も一旦は全面入国禁止としたが、首相の判断とかで一転、緊急事態中も認めることになった。変異種入国増加は必至。緊急事態対応は経済より人命重視のはず。医療は既に崩壊した。5000人も入院調整中?飲食業への協力金も必要だが、コロナ最前線の看護師さんとかの月給に100万円払ったって良いと思う。それに見合うリスクをとって働いている。クリーンエネルギーとかデジタル分野への本格財政投入は、コロナに目途がたってからの話でしょう。それから東京五輪は早いとこ中止決定した方が結果的にはダメージを最小限に抑えられる。どう考えても今の状況で開催できるイメージが湧いてこない。トランプ大統領みたいに変な決断力だけは早い大統領も困るが、決断力に欠ける政治も始末が悪い。

なお、明日土曜日日経新聞朝刊マーケット面に「2021年金価格展望」で私のインタビュー記事が出る予定。



2021年