豊島逸夫の手帖

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中国資産バブルか失業増か、人民元高が孕むリスク

2021年5月28日

「海外の金融資産バブルがいつか崩壊するのではないかと非常に心配している」、「副作用が既に少しずつ明らかになってきた」、「不動産バブルの傾向はなお強い」

3月2日の記者会見での中国人民銀行副総裁郭樹清氏の発言だ。同氏は金融保険業界では泣く子も黙るといわれる銀保監会のトップも兼務する実力者である。中国人民銀行内でも共産党の序列は易綱総裁より高い。それゆえ発言も重い。

同氏は海外資産バブルの中国国内への転移を危惧していた。
その懸念が最近の人民元高加速で現実味を増し、当局はバブル退治に追われている。対ドルの人民元レートは過去1年で10%以上上昇している。コロナ危機からいち早く回復を見せた中国経済が欧米市場では好感されたのだ。

人民元高は中国への資本流入を加速させる。グローバルな視点では先進諸国のコロナ有事対応経済政策の副作用として発生した過剰流動性が世界を回遊して今年は中国にも殺到した。

最新の事例では高騰する鉄鉱石など国際商品の国内先物市場に乱入。商品の買い占め、退蔵、転売なども目立つ。そこで商品取引所の証拠金引き上げなど緊急規制強化により、力づくで暴れる過剰流動性マネーを抑え込んでいる。
更に世界で投機化する仮想通貨についてもマイニング(採掘)と取引の規制強化に動いた。

それでも中国人民銀行が介入を控え人民元高を容認せねばならない理由もある。
まず、人民元を米ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ国際通貨としての座を確立することが習近平政権の長期通貨戦略だ。既にIMFの合成通貨SDRの構成通貨としては認められている。

次に、国内の特に債券市場育成のためには海外機関投資家の参入が必須である。特にコロナ対応のばら撒き政策により、負債を更に増やす結果になった地方自治体は、今後特殊な「融資平台」経由ではなく地方債発行による資金調達へ移行せねばならない。そのためには債券市場のインフラ整備が不可欠なのだ。

国家戦略としても国内の「大循環」と「国際循環」の「双循環」を掲げる。海外からのマネーと技術を呼び込むためには国内市場の構造改革が必須である。

更に、人民元高には輸入に頼る国際商品の国内価格を引き下げる効果もある。これは国内生産者には打撃となるが、川上の生産部門の企業決算は既に好転している。一方、川下の消費型産業は消費マインド回復遅れで苦戦を強いられている。そこに生産者物価高が消費者物価へ転嫁される事態は避けねばならない。中国経済回復もK字型なのだ。

一方、人民元高は輸出産業の国際競争力を削ぐ。これも避けねばならない。中国経済は2021年1-3月期のGDPが前年同期比で18.3%増えた。しかし前期比で見ると年率2.4%程度となる。当局が春節帰省自粛を呼びかけるなどの行動制限で消費回復の重荷となったからだ。ここで輸出部門を痛めるような政策はマクロ的に打ち出しにくい。更にシンセンなど輸出基地での失業増は社会不安を醸成する。これは中国共産党が最も警戒するところだ。

高過ぎず安過ぎず適度の人民元相場を模索する中国人民銀行の危うい綱渡りは続く。
仮に人民元安が続くと中国人投資家はドルや金など外貨建て資産の運用配分を増やす傾向がある。

さて、今日のニュースで驚いたことは東京五輪を中止すると日本はIOCに賠償金を払わねばならないということ。日本側とIOCの契約があってIOCに有利な立て付けになっている。IOCは莫大な放映権収入が頼りなので、それが消えると補填を求めるということのようだ。知らなかった。今や五輪もビジネス。今後の五輪開催国には教訓となったことだろう。

2021年