豊島逸夫の手帖

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新首相よりGPIFと円安が話題、NY市場最前線の反応

2021年9月30日

日本株政変ラリーはほぼスルーしたNY市場だが、ミスターキシダの登板に関してはメディア報道も目立ち、ウォール街でも話題になった。
「アベノミクス批判論者と聞き及ぶが、所得再配分を経済政策として掲げてきたからか」
世界の成長株を追うトレーダーらしい「素朴な疑問」だ。

とは言え今や「政変」と言えば、欧米市場の関心はメルケル首相後継に揺れるドイツへ集中している。
ドイツ政界は乱立気味の政党間の駆け引きによる連立政権樹立の動きだが、日本の政界では与党自民党の構図は変わらず、その党内の派閥争いという特殊性がある。この「党内派閥の駆け引き」は毎回ながら説明に苦労するところだが、結局「旧態依然」と見られ、「大きな変化は期待できない」との評価になる。

それゆえ現場の反応としては、日本関連としてほぼ同じタイミングで報道された「GPIF、中国国債運用見送り」の方が情報の鮮度もあり注目度も高い。
米国大手金融機関は米国市場飽和状態の中で長期戦略として中国市場進出にしのぎを削っているところだ。バイデン政権は中国回避・包囲政策に傾斜しているが、トランプ政権時代でも米国金融界トップたちの北京詣では続いていた。そこに中国と距離も近い日本の公的年金基金が中国回避とも映る運用方針転換に動いたとなると気になる出来事だ。たまたまNY市場内のZoom会議に招待され、日本の政局について説明を求められたのだが、質疑応答ではGPIFの真意を探る姿勢が印象的であった。

そしてヘッジファンド筋からは「円安」についての興味が目立った。久しく「休火山」状態と見られていたドル・円の通貨ペアに米国発金利差要因により、円安進行という新たな状況が起こりつつある。115円程度まで円売りポジションを積み上げ、深追いしてみたいとの本音が透けた。最近は専らドル・ユーロの通貨ペアを荒らしてきたが、その売買サイクルが一巡したところで格好の標的が現れたと受け止めている。たまたま29日に開催されたECB中央銀行フォーラムでのミスタークロダの発言も報道され、市場内にはFRBの利上げ路線に対して周回遅れの日銀との認識が漂う。ミスターキシダよりミスタークロダの名が挙がる場面の方が多かった。

円安の方向性は共有されているのであとは市場のモメンタム(勢い)次第だ。通貨投機筋にしてみれば後講釈は何とでもなる。行けるところまで行ってみたい。ユーロ売買もかなり深追いして臨界点近しとのタイミングでポジションを一気にひっくり返したとの思いがある。

円に関しては日本勢が納得できる理論的裏付けがないと動かない、或いは動けない。理屈抜きに市場の流れを重視する欧米通貨投機筋の視点では先手を取りやすいとの見立てが目立つ。今回の円安の流れも、まずは円売り攻勢の波状攻撃を仕掛け、それでも円安が進行しなければ早々に手仕舞う展開が予想される。
「まずはnext week(来週)が最初の勝負どころ」
短期売買に徹するヘッジファンドの呟きが印象的であった。

2021年