豊島逸夫の手帖

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米物価5%急上昇、期待インフレ率は伸び悩み

2021年6月11日

米国市場のインフレ期待を示す指標である5年、10年ブレークイーブンインフレ率(BEI)が、今年は急上昇した後、6月に入り下落傾向が加速していた。昨日の5月消費者物価5%上昇発表後の変化に注目していたが、さすがに若干反転している。
BEI②.png
これまで6月に発表された諸々の経済統計は好転している。

昨日発表された消費者物価上昇率5%は3月の4.2%に続く急上昇だ。最新雇用統計(5月)も非農業部門雇用者数は55.9万人増と事前予測の60万人超には届かなかったものの底堅い伸びを示した。昨日発表の新規失業保険申請件数(雇用の先行指標)も6週連続の減少で37万6000件であった。8日発表された4月求人件数930万人という数字も衝撃的であった。1日と3日に発表されたISM景況指数も絶好調で、特に非製造業部門(3日発表)は64.0と過去最高を記録した。

それでもFRBの「インフレは一過性」との見解が変わる兆しは感じられない。期待インフレの下落は市場の「FRBには逆らうな」との姿勢を映す現象とも言える。但し「FRBを疑え」との論調も根強い。
FRBのインフレ期待感が高まらない理由は、供給制約を一時的現象とする見方に加え、現在の賃金上昇傾向が継続性に欠けるからであろう。

足元では飲食業・住宅部門などで人手不足が深刻化して、入社時特別ボーナス支給の厚遇などが話題になる。臨時労働力として高給で学生アルバイトが動員され、教授たちは学業を疎かにしていると嘆く。賃金上昇もここまで来ると「臨時手当バブル」の様相だ。
この労働需給ひっ迫の背景には、労働参加率が5月も61.6%とコロナ前の63%台には戻らないことが指摘される。その背景は複雑だ。共稼ぎ夫婦の場合、不規則な学校再開ゆえ妻は家庭を離れられない。失業保険増額で勤労意欲を削がれた労働者のモラルハザードも顕著。働けるシニア層、特にベビーブーマー世代もコロナ感染がトラウマとなり労働市場に戻ってこない。

とは言え、ワクチン接種が進み、経済回復が進めば、労働参加率上昇も見込める。学校再開は時間の問題であろう。失業保険増額は早晩失効する。感染トラウマも日常生活が正常化すれば薄れる可能性がある。労働参加率がコロナ前の水準に戻れば、賃金上昇にも歯止めがかかるであろう。
更に、昨年同月対比の消費者物価上昇率に関しては、低水準からの上昇率という「ベース効果」が無視できない。この要因は6月頃まで続くので、消費者物価上昇率の実態が見えるのは7月以降になるとの見解もある。
米国消費者物価上昇率.pngなお、異変株、特にデルタ株へのワクチン有効性という不透明要因も残る。この問題は供給制約で物価は上がるが、景況感は悪化する「スタグフレーション」リスクを孕むので要注意だ。

さて、五輪のスポンサー企業が用意した五輪期間中の広告を予定通り流すか否か困惑しているとフィナンシャルタイムズが報じた。この問題は日本のメディアでは取り上げられない。大事な広告主=顧客だからだ。
五輪のマークを小さくした広告を掲載する企業。五輪中の広告を控える企業。世論調査で国民の五輪反対の割合がどうなるか模様眺めの企業。五輪用キャンペーンを全て準備し終えたところで広告中止を決定した企業などは、かなりの損失を負うようだ。総じて五輪スポンサーになると当該企業のイメージが悪くなると指摘する専門家もいる。まさに前代未聞。祝福されないオリンピックとなるは必至。

2021年