2021年5月20日
大山鳴動してこの程度(ダウ164安)で収まったかとの感がある。
振り返れば慌ただしい24時間であった。
中国が銀行の暗号資産業務に禁止令を発したことで、ビットコイン相場は一気に3万ドル大台近くまで暴落した。最高値の半値水準だ。
筆者が驚いたのは、市場がこの修羅場を見せつけられ一時はリスクオフ状態に陥ったことだ。暗号資産は未だ資産クラスとして認知されたとは言い難い存在である。しかし投資家は自分だけが出遅れることを恐れ買いブームに乗った。機関投資家も米国生保などが参入。米国のカリスマ投資家たちも次々に買いを推奨。テスラ社マスク社長の積極姿勢は特に影響力があった。それゆえ同氏の方針転換は売りを加速させた。市場規模は未だ限定的だがマーケットへの心理的影響が強まっていることは確認された。
但し、今回の価格波乱でビットコインの「ヘッジ機能」に疑問符がついたことも事実であろう。ボラティリティー(価格変動)がこれほど激しいと、「インフレに備える資産」として保有すること自体がリスクになってしまう。
暗号資産業界悲願の「ビットコインETF」もSEC(米国証券取引委員会)が承認する可能性は遠退いたと言えよう。
筆者は金ETFを米国NY証券取引所に上場するプロジェクトに直接関与してSECに日参した経験がある。そこでSECが最も神経質に確認を求めたことは「原資産価格に正確に連動すること」であった。そのためには顧客の売買注文をいつでも自己リスクで引き受けるマーケットメーカーの存在が欠かせない。SECは少なくとも3社の大手マーケットメーカーの参加が望ましいとの姿勢であった。
これを暗号資産ETFに例えれば、この24時間に起きたような価格大変動の最中でも、常に売値(オファー)と買値(ビッド)を呈示するディーラーが複数必要とされることになる。ディーラーの立場では無理筋である。値付けを強制されても、売値と買値の差(スプレッド)は極端に大きく開くことになり、気配値程度の数字になってしまう。
機関投資家の立場でも、暴落中に市場の流動性が枯渇して売り逃げできないことの恐怖はリーマンショック時に経験済みである。
とは言え、ビットコイン価格は3万ドル台を維持して依然高値圏を保つ。今回損失を被ったのはこの数か月にビットコインバブル狂騒曲に乗って踊った投機家たちと言えよう。
そして金は、ビットコイン暴落に接してどちらに動けば良いのやら方向感が出ず。取りあえず1870ドル近傍で推移している。
但し、価値の保存手段としてはビットコインより金の方が優れていることがはからずも実証された感がある。
そしてFOMC議事録(4月分)。
複数の参加者がテーパリング議論を始めるべきと考えるとの文言が「緩和縮小開始の合図」とも解釈された。但し3月FOMC時に発表されたFRB経済レポートのドットチャート(参加者による金利予測)では、4名のタカ派が2022年利上げを予測していた。カプラン・ダラス連銀総裁はテレビ生出演で自らがその4つのドットのひとつだと異例の告白で認めている。更にテーパリング決定の必須条件として経済の本格回復が挙げられるが、雇用面ではまだミスマッチやモラルハザードが目立つ。労働参加率は依然低位に留まる。就業するより追加給付付き失業保険の方が収入の高い人たち。学校が再開されたものの未だ不規則で結局家庭を離れられず働けない母たち。営業再開の飲食店や住宅工事現場では労働力不足が足を引っ張る。感染を恐れるトラウマで就職を躊躇う人たちも少なくないからだ。望む職種が見つかるまで失業保険で凌ぐ就業希望者も多い。いずれも「一過性」であろうがFOMCの立場では慎重な見極めが必要となる。
結局パウエルFRB議長は緩和縮小など「考えることを考えたこともない」と言ってきたが、「考えることは考える」との姿勢に一歩進んだとの印象が残った。
なお、注目のテーパリングのスケジュールだが6~7月のFOMCでテーパリングを議論、8月のジャクソンホール中央銀行フォーラムで一般論としてテーパリングの必要性を議論、9~11月のFOMCでテーパリング決定、12~1月のFOMC後にテーパリング開始と筆者は見ている。
さて、緊急事態下の生活で楽しみは大谷選手の投打にわたる活躍を連日テレビで観られること。午前10時頃からのテレビ中継ゆえ在宅勤務ならではの醍醐味(笑)。そして今日からは深夜にゴルフの全米プロで松山選手のプレーを観られる。今週は米国女子ゴルフツアーで渋野選手も観られる。というわけでNY市場そっちのけになりそう(笑)。