豊島逸夫の手帖

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恒大デフォルト対策の実相

2021年12月14日

恒大集団発行の社債のデフォルト危機に関しては「大き過ぎて潰せない」ので、国によるステルス救済が不可避と書いてきたが、人民元建て債券に関しては、具体的なスキームが浮上してきた。

基本的には、国有不動産企業が恒大集団の大型建設案件を買収するという手段である。そのために国有企業は「不動産企業買収資金調達」の目的で社債を発行する。その特別目的社債を誰が買うのかと言えば、国策銀行などが想定される。結局、公的マネーが注入されるわけだ。国策銀行の不良債権が増えそうだが、これはこれでお咎めはない。

共同富裕構想の中で、露骨な巨大企業救済の印象を薄めるために、このように複雑なステルス救済案が浮上したと見られる。
更に、地方政府もデフォルト監視委員のようなスタッフを派遣して一連の過程に直接関与する。

恒大以外にもデフォルトのリスクを抱える不動産企業は多いので、中国の不動産業界で大型買収案件が増えそうだ。
まさに苦肉の策と言えよう。

なお、習近平政権が最も重視するのは、既に恒大マンションを全額前金で購入した人たちの救済だ。ここは最優先課題として掲げ、社会不安の原因にならぬように配慮している。
更に、見せしめ的に恒大幹部を「吊し上げる」ことも共同富裕構想の中では必要となる。

以上は人民元建ての債券に関する処置だが、ドル建て債券に関しては通常のデフォルト処理を実行するだろう。外国人の社債保有者には情け容赦なく損失を強いる。既に時価は額面の7~8割減の水準になっている。それでもディストレス投資と言ってデフォルト企業の社債を叩いて安く買い受け、転売して儲けるヘッジファンドが少なくない。このようなリスクを引き受けるファンドがあるから、元本8割引きでも債券市場で売買が成立するわけだ。

マクロ的視点では、不動産関連が中国GDPの29%を占め、中国個人資産の7割程度が不動産なので、中国経済成長減速を加速しかねない。これも苦肉の策だが、不動産投機を防ぐために導入した不動産売買規制を一部緩和せざるを得なくなっている。

習近平政権の綱渡りは続く。

2021年