豊島逸夫の手帖

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パウエル再任、貴金属価格暴落

2021年1124

まずは、このKITCO金価格24時間グラフをご覧いただきたい。
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日本の祝日を挟み、一昨日が赤線、昨日が緑線。
つい先日は1900ドル視野、金高騰の様相であったが、一転1700ドル台まで暴落。
キッカケはパウエルFRB議長再任。

この人事の影響で、日本では円安115円まで円安が進行したことから日本人にも他人事ではなくなり、NHKニュースでもトップ扱いで報道された。

では、なぜパウエル再任がこれほどの市場大変動を誘発したのか。
そもそもパウエル氏は「当確」だったではないか。市場は2022年利上げを織り込んでいたではないか。
震源地はホワイトハウス。バイデン大統領にある。

インフレが米国一般市民生活を直撃して、来年の中間選挙を控え、大きな政治問題となった。バイデン氏も無策では済まされない状況だ。そこでインフレ対策としてFRB議長人事を有権者に強く印象付ける必要に迫られた。先週はバイデン氏が「4日内に人事決定」と語ったが、決断が遅れ、「感謝祭祝日前には」に変わり、結果的に市場が焦れた。待たされると、これは対抗馬ブレイナード氏起用かとの憶測が流れる。そして日本の勤労感謝の日(祝日)直前に、FRB議長はパウエル氏、ブレイナード氏を副議長に指名という妥協の決断を発表した。市場はブレイナード氏の方がハト派色は強いので、この人事はややタカ派寄りとの見方。更にインフレを抑え込むことが政治的には優先課題ゆえ、これで利上げせずインフレを放置すれば、バイデン大統領は「指名責任」を問われる。逆にインフレ退治に成功すれば、来年の中間選挙にも民主党有利の材料になる。結局バイデン大統領もパウエルFRB議長もインフレ封じ込めの利上げをしなければ「無策」の誹りを受けかねない。このような状況下で利上げを覚悟していたはずの市場も改めて利上げを前提に反応したわけだ。

具体的には米ドル金利、特に政策金利と連動する米2年債利回りが一日で15%もの上昇率で急騰。ドルインデックスは一気に66.5まで急伸。円安115円示現。ドル金利高、ドル高でNY金は売り一色。

ここで金の下げ幅が大きくなったのは先物主導の展開だったから。昨年のETF主導との対比が鮮明だ。本欄でも繰り返し書いてきたように投機色が極めて強い。筆者はこれでは丁半博打とまで断じた。特に投機的買いポジションの売り手仕舞いが目立った。相場の形も悪いので空売りも増えた。まさにプロの空中戦の様相だ。

冷静に見れば、昨晩のNY市場では既に2年債利回りは頭打ち。2022年6月までに利上げの確率も若干下がってきた。市場の期待インフレを示すブレークイーブンインフレ率もやや下落傾向。パニック的な初期反応は一巡の感がある。

1800ドル前後の水準で振り出しに戻り、今後の経済指標、FOMC要人発言、そして空席のFRB理事人事などが材料視されよう。

それにしても金市場の利上げアレルギーの強さを見せつけられた。

さて、今日の写真は面白いよ。
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先日発売されたばかりの日経マネー最新号、金別冊での対談。

この3人とも例年同じような相場観ゆえ、敢えて私が弱気派になって、議論にメリハリを付け盛り上げようとの涙ぐましい(笑)配慮。そもそもプロが全員強気になると相場は下がる傾向があるしね。その結果、議論としては読者の参考になり面白くなっていると思う。立ち読みではなく買ってあげてね(笑)。

私は監修役として、プロ3人対談の他に巻頭8ページ、更にコモディティー価格高騰について日経コモディティーエディターと対談4ページをこなしているよ。

ぶっちゃけ私は後輩二人ほど強気ではないが基本的には金相場は歴史的高値圏を維持するとの見解。これについてはいずれ語ろう。

2021年