豊島逸夫の手帖

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ハワイ州知事「来ないで!」トランプ氏「接種を薦める」

2021年827

米国でもデルタ株急拡大で国民の間に不安感が広がっている。
象徴的な出来事はワクチン接種で観光客が戻っていたハワイで医療崩壊危機。遂に州知事が「ハワイに来ないで!」。

そしてワクチン接種遅れが目立つアラバマ州で、トランプ氏が「皆さん、ワクチン接種しましょうね」。集会に集まったトランプファンには接種拒否派が多いので、トランプ氏がブーイングを浴びたという。

このデルタ株問題は金融政策にも影響を与える。
以下にジャクソンホールで議論されそうな事をまとめてみた。

FOMC金融政策決定会合の場合、参加者に対し金融政策に関する公的発言を禁じるブラックアウト期間が2週間ほど定められている。しかしジャクソンホール中央銀行フォーラムにブラックアウト期間は無い。日本時間今夜に予定されている注目のパウエル議長講演(リモート形式)も米国金融政策発表の場ではない。市場が勝手にパウエル発言の行間を読み、テーパリングについて何らかのヒントを求めているに過ぎない。

それゆえFOMC参加者も例年この時期になるとメディアのインタビューで自由に持論を語る。
26日には筋金入りタカ派3名がNY時間午前中に相次いでテレビ経済番組に生出演した。

一番手はジャクソンホール会議のホスト役でもあるカンザスシティ地区連銀のエスター・ジョージ総裁。金融政策変更の条件としてパウエル議長が掲げてきた「更なる著しい進展」が満たされたと判断すると明言した。

二番手はセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁。量的緩和の縮小プログラムを来年3月までに終わらせよと語った。テーパリングは縮小と言っても基本的には量的緩和は継続。緩和から引き締めへの本格転換はやはり「利上げ」。この本丸の議論を3月以降にインフレ指標などを見つつじっくり議論する時間を残すことが賢明との見解だ。
これ以上量的緩和を拡大しても供給サイドの生産制約由来のインフレは制御できない。それより過剰流動性による資産価格バブルのリスクの方が懸念される。これはタカ派に共通した見解である。
リーマンショック後は量的緩和の需要サイドへの刺激効果が効いた。しかしコロナ危機では供給サイドの目詰まりが問題なので、量的緩和の効果は逓減するとの金融政策論も話題になりそうだ。

そして三番手がダラス連銀のロバート・カプラン総裁。
かねてから「テーパリングを9月FOMCで発表。10月には開始」を唱えてきた。デルタ株が猛威を振るう今の状況になっても、その見解に変わりはないと明言した。

とは言え、デルタ株の今後について見通せる医療専門家は世界で誰一人いないので、タカ派論者もデルタ株の経済への影響については言葉を濁す場面が見られる。
結局のところ、金融政策もデルタ株次第。パウエル議長はこれまで変異ウイルスの経済への影響は限定的との見解を語ってきた。しかし最新の米国マクロ経済指標は、PMIや消費者信頼感指数などでコロナ再燃による経済委縮を示す数字が並ぶ。8月雇用統計も鈍化の予測が出始めている。このような経済環境に鑑み、パウエル議長がジャクソンホール講演でテーパリング時期の先延ばしを示唆すれば、これはサプライズとなろう。

なお、テーパリング決定の時期については、当初「まだ先のこと some time away」と表現していたのが、その後「数か月先 several months」に変わった。今回「近い時期」のようなニュアンスの英語表現になれば、「秋9月、10月にも決定か」と読むであろう。対して再び「数か月先」が使われれば、晩秋11月から12月にずれ込むとも解釈されよう。

なお、市場はテーパリングを覚悟しているのだが「量的緩和依存症」の症状が顕著なので、禁断症状の如き不安心理は根強く残りそうだ。これまでは経済に異変が生じ株価が暴落すれば、FRB議長が追加緩和などの助け舟を出してくれた。しかし今後は「パウエルプット」も期待できないとなると、変異ウイルスに対する不安が身に染みてくる。

これまでは株式市場で悪いニュースも政策期待で相場には良いニュースと扱われたが、これからは悪いニュースは悪いニュースと受け止めねばなるまい。所謂「いいとこ取り相場」はもはや期待できない。

金市場は悪いニュースで買われる。総じて一般論として株価は楽観論で育ち、金価格と債券価格は悲観論で育つと言われる。

最後に昨晩はアフガニスタンのカブールでISIS分派によるテロ勃発。久しぶりに有事の金買い。1780ドルから1797ドルまで上昇。と言っても一過性。市場の注目は地政学的リスクより、先般本欄でも書いたがバイデン政権の支持率が更に低下しそうなこと。既にアフガン対応策に関して賛成は僅か25%だ。この政局混迷は3.5兆ドル規模の大型インフラ投資案の議会通過を妨げる。ここがアフガン問題に関する市場の視点だ。

それにしても米国と過激派タリバンが外国人アフガン脱出に関して協調しているところに最過激派ISIS系が楔を打ち込んだ。バイデン氏はリベンジを表明。かなり危うい。

2021年