豊島逸夫の手帖

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バイデンリフレ策発表、市場は「お手並み拝見」

2021年1月15日

バイデン次期大統領のコロナ支援関連講演は日本時間15日午前9時過ぎから始まった。米国市場で重要材料視されているので世界が注目した。

冒頭で株価上昇に言及して「富の格差」を生む要因と位置付けた。トランプ氏の株価重視とは異なり、一定の距離を置く姿勢に市場は身構える。

そして本論の予算規模。コロナ対策を第一弾と位置付け、実質的にバイデン政権の初仕事となる展開だ。第二弾として選挙公約のクリーンエネルギー関連とインフラ投資に投入する予算案を明らかにするという筋書きである。

その第一弾は1.9兆ドル。そもそも民主党案が2兆ドル、共和党案が5千億ドル程度から「摺り寄せ」が始まったので、結局ブルーウェーブの勢いで民主党案を通すという強気の姿勢だ。

市場の反応は総額2兆ドル近くなら想定より高い水準ゆえ大筋歓迎。とは言えこの案がどこまで実現するのか懐疑的な見解も根強い。

まず給付金を原案から1400ドル上乗せして2000ドルとした件は共和党内で財政均衡派が難色を示してきたが、そもそも2000ドルへの増額を提示したのはトランプ大統領ゆえ最終的に受け入れられた。2022年中間選挙には熱狂的トランプ支持者の票が必要とされ「応援演説」を期待しての配慮であろう。しかし弾劾の影響は甚大ゆえトランプ氏追放の動きも出始めている。バイデン陣営から見れば「薄氷の合意」との印象もあろう。

州政府など地方自治体への予算支援も共和党が一貫して反対してきたところだ。ここではバイデン氏の長年の盟友マコーネル共和党院内総務との「阿吽の呼吸」の根回しが効いたようだ。ここでバイデン氏は「借り」を作ったが、いずれ増税が議論される時には、法人税21%から28%への増税案を25%程度に抑えることで「借りを返す」シナリオなどが考えられる。「腹芸」はバイデン氏の得意技だ。市場の視点ではトランプリスクも予見不能であったが、バイデン氏の「腹の内」も読みづらい。

バイデン氏は今後も議会合意に向け二つのカードを持つ。
まず目指すは超党派合意。特にワクチン対策や学校再開支援には共和党も支持の姿勢だ。雇用支援にも緊急性がある。最新雇用統計は非農業部門新規雇用者14万人減。更に14日発表の新規失業保険申請者数も昨年3月以来の大幅増で100万件の大台に接近した。ここは今年3月に期限切れとなる失業保険上乗せを9月まで週400ドル増額することに異論はなかろう。

更に、今後は例えば国外利益への課税強化という面で、GAFA狙い撃ちとなれば両党賛成の可能性がある。

とは言え、共和党があくまで反対姿勢を貫く項目があれば「財政調整法=リコンシリエーション」という切り札を使い、強行突破の選択肢もある。これは特定財政案件につき、上院で通常の60票ではなく副大統領の決定票も含め51票の多数決で決定できる特殊ルートだ。時間がかかり認められる件数も限定されるので最後の備えとして極力温存されよう。因みにこの手段は民主党急進左派サンダース上院議員が積極的な使用を唱えている。

なお、バイデン氏には「時間との戦い」も待ち受ける。
既に「大統領就任後100日以内に1億人にワクチン接種」という具体的目標を掲げた。そのためにはコロナ検査支援500億ドルとワクチン接種促進のための200億ドルは欠かせない。ところが議会での弾劾審議が今のペースだと1月19日(大統領就任日1月20日の前日)まで続くリスクがある。ここは弾劾議論も頃合いを見計らって収め、予算審議に移って欲しいというのが本音であろう。
バイデン次期大統領のデビュー戦は綱渡りの連続となりそうだ。

金に関して注目点は、バイデン次期大統領があくまで財源の多くを国債増発に依存して増税案は骨抜き気味なこと。これはリスクだ。

それにしてもこれだけバタついても米国のコロナ対応にはスピード感と具体性があるし分かりやすい。
それに比べ、、、、もうやめよう。愚痴ってももう手遅れだ。

2021年