豊島逸夫の手帖

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いま、なぜ「金(ゴールド)」なのか?

2021年3月2日

国際金価格は底値圏が視野に入る段階です。まだ底打ちには時間がかかるでしょうが。

さて、今日は先週読売新聞オンラインに寄稿した元原稿の採録です。

勤めている会社はあてにならない。国もあてにならない。まして男はもっとあてにならない。
仮に結婚するにしても、あるいは、おひとり様でいるにせよ、やはり、おカネの問題は大切。銭の奴隷になるわけではないけれど、自宅待機で時間もあることだし、ひとつここで投資について勉強しようか。
そのような女子が増えています。

筆者も、実際にコロナ禍で、ネットセミナー形式による女子向けゴールド・セミナーで講演する機会が増えました。

その際に、事前アンケート調査することもあるのですが、そこで書かれた結果に驚いています。
7割の参加者が同じ事を書き込むのです。それは「老後」。
筆者のようなバブル世代から見れば、20~30代の若者が老後の心配をするなど、考えられないことです。

でも、話してみると、なるほど。いわゆる「氷河期世代」なのですね。生まれてこのかたバブルなんて良いことはひとつもなかった。たぶん、少子高齢化とやらで、今後も良くなることは期待できない。でも、そんな時代だからこそ、今のうちから、せめておカネの勉強だけはしておこう、というわけです。「危機に備え自衛します」というような物々しい表現を若い女性から聞くと、違和感があるのですが、でも置かれた状況を考えるに、なるほどとも思うのです。

彼女たちも、たまたま、どこかで「ゴールド・セミナー」なるものの告知に接し、まず「ゴールド?ヤバそう」と感じるのですが、でも「ゴールドジュエリーってシルバーと違って錆びないし、なにがあっても価値は残るのかも」という発想にもなるようです。

実は、セミナー後の事後アンケートで「豊島さんって、金の専門家という触れ込みで、ヤバそうな人と思ってました。ゴメンナサイ。めちゃ真面目なんですね」と書き込まれ、思わず吹き出したこともあります(笑)。

そういう立場で講師側から見ると、とにかく「金について知ってみよう」と勉強する姿勢が伝わってくるので、話すほうも話甲斐があるというものです。こういっては何ですが、筆者と同世代が相手だと、バブル世代ゆえ、なにか「上手い儲け話はないか」「専門家なら手っ取り早く儲かる裏技を教えてくれるだろう」とムンムン感がヒシヒシ伝わってくるのですよ。コロナ前ですと、会場にはおじ様たちの加齢臭が満ちたものです(笑)。

さて、そのゴールド・セミナーで話すことは、まず、金を誰が買っているのか。結論から言うと、中国・インド・中東の女性男性だけで、年間生産される3400トンほどの金の半分以上を買い占めてしまいます。

例えば、写真は中東の都市国家ドバイでの光景。黒い民族衣装に身を包む女性たちがゴールドジュエリーの品定めをしている光景です。

3212c.jpg実は、この宝飾店には「試着室」がカーテンで仕切られています。アパレルならいざ知らず、ジュエリーで試着室?実は、イスラムの戒律で肌を晒せないので、ネックレスなどの試着にも気配りが必要なのです。更に筆者が驚いたことは、結局、身に着けても、黒の衣装の下で、人に見せられない、ということ。ジュエリーとは美しく見せるものですよね。それでもジュエリーが人気ってなぜ?色々調べたのですが、結論は「自己満足」でした。つまり民族のDNAとして金好きなのですね。こういう文化的な金選好度の高さに裏打ちされた需要は根強いです。

ちなみにドバイでは、アーケード街の店の全てがゴールドショップという信じられない光景も見られます。

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3212b.jpg同じような金需要形態が、インドでも中国でも見られます。インドでは、嫁ぐ娘に持たせる持参金が文字通り持参「金(ゴールド)」。金宝飾品一式持たせられなければ、父の沽券にかかわります。中国では、最新ショッピングモールの入り口一等地に店を構えるのが、スタバ、ケンタッキー、そしてゴールドショップという光景も見られます。一番の売れ筋の一つが「金」。しかも若者向きモールなので、世代を超えた金への愛着が民族的にあるのですね。

さすがに昨年はロックダウンでゴールドショップも閉店。金需要は減りました。しかし、今年はその反動で、コロナ後には、潜在需要が一気に噴出しそうです。

いっぽう、金の生産は、長期的に頭打ちから減少傾向。世界のめぼしい金鉱脈がほぼ開発され、残るは海底金鉱脈という状況なのです。原油なら液体ですから、海底油田でも噴出してくれますが、金は固体。しかも金鉱石1トンから採れる純金の量たるや僅か2グラム程度。これでは採掘コストが天文学的な数字になり、とても採算に合わないので、埋蔵量はあるのですが、開発は出来ないのです。結局、供給源としてのこれからは、リサイクルで回収される金頼み。それゆえ、供給はピークアウトというわけです。

需要は増え、供給は減る。世界情勢は刻々変わり、短期的価格変動はあっても、「長期的」に見て金の価値は上がることはあれど、下がることは考えにくい状況です。

以上

なお、後日談ですが新聞社の校閲に引っ掛かった部分がありました。
それが「加齢臭」。
筆者も「おやじ」の一人なので抵抗感はなかったのですが、新聞社から見ると「読者の一部の心を傷つける恐れがある」との指摘で削除されました(笑)。

2021年